ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「眠った? 眠ったんですか? これから人を殺そうっていうのに?」
「そんなに、信じられないって顔、しないでくれる? 吉原」
そう言って少し自嘲気味に微笑んだ榎木に、要は嫌悪感をあらわにした。
「笑うの止めてくれませんか?」
「何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってない。呆れてるんだよ!」
「ムキになっちゃって、いつもオチャラケてる吉原らしくないんじゃない?」
「要じゃなくったって怒るわよ! 呆れ果てるわ!」
あかねがそう怒鳴ると、秋葉も由希も頷いて侮蔑する。
「信っじらんねぇ」
「はっきりした。やっぱりこんな奴に、霊能力なんかないよ」
哀しそうに美奈が呟く。
「どうしてそんなことが、出来るの? 同じ人間なのに……」
それらを聴いた榎木は「何よそれ」と苦笑して、感情を吐き出した。
「信じられない? 人間なのに? 人間だからよ!! 人間だから出来るのよ!! 兵士は人を殺すでしょ? 何のためらいも無く殺せるのよ!! 知った風な口聞かないで! 正義感なんて振りかざさないでよ!! ――信じられない? でも、実際私はそうだったの。そうだったのよ!! 初めて人を殺した時、とても恐くて怖くて、何日も何週間も眠れなかった。でも二回目、日吉を殺した時は、三日で眠れるようになった! 呉野の時なんかその日の内に眠れた! そういうものなのよ!!」
「……おかしいんじゃない?」
あかねは信じられないという顔をして涙をうっすら浮かべた。
由希、美奈、秋葉も信じられないという驚愕と嫌悪が入り混じった表情をしていた。要と三枝だけが、ただ榎木を見つめていた。その表情からは感情をうかがい知ることは出来なかった。
あらゆる視線を送られた榎木は、俯いて呟く。
「……解らない事よ。その行為をしたことのない者には、解らないことだわ」
その姿を見た要は、ゆっくり口を開く。
「でも、あたし、思うんですけど『なれ』っていうのは人間の中でけっこう恐い部分なんじゃないかって。あたしにも秘密がありますけど、それを始める時スゴク緊張して、すごい悪い事してんじゃないかって思ったりもしてたんですけど、いまではすっかりそんな感情も『なれ』ちゃってんですよね。『なれ』ちゃってて、『麻痺』しちゃってて、でも確実にそれは、他の者から見れば、『悪い事』なんですよね」
「……悪い事」
「ええ。そして『悪い事』をする時に、まず考えるべきことって『自分』じゃなくて『他人』なんじゃないですか?」
「そうよ! 榎木先輩は自分勝手よ!!」
あかねが泣きそうになりながら、感情的にそう吠える。
「他人?」
「そうです。先輩のお話を聴く限りじゃ、先輩は『自分』のことしか考えてないみたいでしたね」
「自分の事を考えて何が悪いの!?」
〝わけが分からない〟という表情の榎木に、冷たい視線を送りながら由希が口を開いた。
「やっぱりこんな奴に霊能力無いって言ったの覚えてる? 美奈はね、小さい頃から幽霊が見えてたんだ。それは決して良いもんばかりじゃなく、醜いもんだっていた。「苦しい」「助けて」血みどろの奴らが美奈に群がった。でもそんな奴らから美奈を守ってくれる幽霊もいた。だから美奈は優しさも、誰かを傷つける怖さも知ってる。幽霊見える奴らはみんなそうなんじゃないかってウチは思う。だから、自分の都合を狂気で押し付けるアンタには霊能力なんてあるはずないよ!」
由希がそう言って冷たく睨むと、美奈は由希を感謝の想いで見つめた。
――私が嘘をついてるって言うの?私には霊能力があるのよ!!
榎木はそう叫びたかった。けれど、それをする事は出来なかった。
(――私は、なんのために『それ』に固執してきたんだろう?)
自分の望むものがなんなのか、彼女は解らなくなっていた。そして、叱責された榎木は床に視線を落とした。すると、彼女はふと思い出した。
「……呉野は、あの時なんて……?」
「そんなに、信じられないって顔、しないでくれる? 吉原」
そう言って少し自嘲気味に微笑んだ榎木に、要は嫌悪感をあらわにした。
「笑うの止めてくれませんか?」
「何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってない。呆れてるんだよ!」
「ムキになっちゃって、いつもオチャラケてる吉原らしくないんじゃない?」
「要じゃなくったって怒るわよ! 呆れ果てるわ!」
あかねがそう怒鳴ると、秋葉も由希も頷いて侮蔑する。
「信っじらんねぇ」
「はっきりした。やっぱりこんな奴に、霊能力なんかないよ」
哀しそうに美奈が呟く。
「どうしてそんなことが、出来るの? 同じ人間なのに……」
それらを聴いた榎木は「何よそれ」と苦笑して、感情を吐き出した。
「信じられない? 人間なのに? 人間だからよ!! 人間だから出来るのよ!! 兵士は人を殺すでしょ? 何のためらいも無く殺せるのよ!! 知った風な口聞かないで! 正義感なんて振りかざさないでよ!! ――信じられない? でも、実際私はそうだったの。そうだったのよ!! 初めて人を殺した時、とても恐くて怖くて、何日も何週間も眠れなかった。でも二回目、日吉を殺した時は、三日で眠れるようになった! 呉野の時なんかその日の内に眠れた! そういうものなのよ!!」
「……おかしいんじゃない?」
あかねは信じられないという顔をして涙をうっすら浮かべた。
由希、美奈、秋葉も信じられないという驚愕と嫌悪が入り混じった表情をしていた。要と三枝だけが、ただ榎木を見つめていた。その表情からは感情をうかがい知ることは出来なかった。
あらゆる視線を送られた榎木は、俯いて呟く。
「……解らない事よ。その行為をしたことのない者には、解らないことだわ」
その姿を見た要は、ゆっくり口を開く。
「でも、あたし、思うんですけど『なれ』っていうのは人間の中でけっこう恐い部分なんじゃないかって。あたしにも秘密がありますけど、それを始める時スゴク緊張して、すごい悪い事してんじゃないかって思ったりもしてたんですけど、いまではすっかりそんな感情も『なれ』ちゃってんですよね。『なれ』ちゃってて、『麻痺』しちゃってて、でも確実にそれは、他の者から見れば、『悪い事』なんですよね」
「……悪い事」
「ええ。そして『悪い事』をする時に、まず考えるべきことって『自分』じゃなくて『他人』なんじゃないですか?」
「そうよ! 榎木先輩は自分勝手よ!!」
あかねが泣きそうになりながら、感情的にそう吠える。
「他人?」
「そうです。先輩のお話を聴く限りじゃ、先輩は『自分』のことしか考えてないみたいでしたね」
「自分の事を考えて何が悪いの!?」
〝わけが分からない〟という表情の榎木に、冷たい視線を送りながら由希が口を開いた。
「やっぱりこんな奴に霊能力無いって言ったの覚えてる? 美奈はね、小さい頃から幽霊が見えてたんだ。それは決して良いもんばかりじゃなく、醜いもんだっていた。「苦しい」「助けて」血みどろの奴らが美奈に群がった。でもそんな奴らから美奈を守ってくれる幽霊もいた。だから美奈は優しさも、誰かを傷つける怖さも知ってる。幽霊見える奴らはみんなそうなんじゃないかってウチは思う。だから、自分の都合を狂気で押し付けるアンタには霊能力なんてあるはずないよ!」
由希がそう言って冷たく睨むと、美奈は由希を感謝の想いで見つめた。
――私が嘘をついてるって言うの?私には霊能力があるのよ!!
榎木はそう叫びたかった。けれど、それをする事は出来なかった。
(――私は、なんのために『それ』に固執してきたんだろう?)
自分の望むものがなんなのか、彼女は解らなくなっていた。そして、叱責された榎木は床に視線を落とした。すると、彼女はふと思い出した。
「……呉野は、あの時なんて……?」