ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
5時間目の授業が開始して、数十分経った頃、由希が控えめに手を上げた。

「……すみません」

「どうした、藍原」

「あの、ちょっと、気分が悪いので……保健室に、行きたいんです、けど」

オズオズとそう切り出すと、先生は執務的に短く問う。

「そうか、じゃあ、行ってこい。一人で大丈夫か?」

「はい」

それに答えて、ゆっくりと席を立った。口元に手を当てながら、教室を出て行く。
その背中をあかねと秋葉は心配そうに見送った。それに比べて要は、感慨深げに由希を見ただけだった。

由希が出て行った教室は、つつがなく授業が進められていた。
そんな中で、あかねは「由希、大丈夫かな?」と、心配して頬杖をついた。ふと、目線を外にずらす。

(あかねの席は窓際で、要は中央の一番後ろの席だった。秋葉は廊下側の前から三番目の席で、由希は中央の前から二番目の席だ。)

何気なく目線を下げると、校舎から出て行く人影が見えた。
それはとてもなじみのある顔で、さっきまで心配していた人物だった。

(――由希、帰るんだ……そんなに体調悪かったのかな? 大丈夫かしら)

後でメールでも送ってみよう。そう思ってあかねは、目の前の授業に集中する事にした。

――キンコンカンコン♪

授業の終わりを知らせるチャイムが、厳かに鳴る。さっそくあかねは携帯を取り出した。

「どしたん?」

声をかけてきたのは要だった。

「由希、大丈夫かなって。メールしようと思って」

「ふ~ん、そっか。風邪とかだったら無理すんなよって言っとけ」

言ったのは秋葉で、あかねは「命令しないでよ!」と小さく言って、メールを打とうとした。

そこに ――ガラ と教室の扉が開いた。見ると、帰ったはずの少女がそこにいる。

「由希!」

あかねは声を上げて、由希に駆け寄った。

「大丈夫なの? 帰ったんじゃないの?」

「うん……大丈夫。――帰ったって?」

由希ははっきりと答えると、困惑したように質問をした。

その姿を見て、あかねは思う。

(――あれ? 見間違いかしら?)

「ううん。気にしないで、何でもないわ」

きっと、見間違いよね。と、あかねは納得し、由希の席まで付き添う。
本当にもう大丈夫なのか、やってきた秋葉と要と確認すると、自分の席に戻った。

すると要がそろそろと近づいてきて、あかねの机に手を置く。

「ねえ、さっきの「帰ったんじゃないの」ってなに?」

「なに……アンタ聞いてたの?」

「聞こえたの。で、なに?」

急かす要に、あかねは渋々答えた。

「さっき、授業中に由希が校舎を出たのを見た気がしたんだけど、見間違いだったみたい」

そう言って、あかねは次の授業の準備をする。次は移動だからさっさと支度をしなければ。

「アンタもさっさと準備しなさいよ」

「うん」

言った要は上の空で、じっと何かを考えるように由希を見つめていた。
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