ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
翌日・放課後――
「何なの!? いきなり押しかけてきて!」
「すみません。日吉先輩」
にこやかに要が謝る。
日吉を連れて来た場所は第二体育館の体育館裏だ。第二体育館でバスケ部が練習をしていて、たまたま休憩時間だったので、裏まで来てもらったのだ。
しかし、日吉はかなり不機嫌に4人をギロリと睨みつけながらタオルで汗を拭いた。
「実はですね、高村先輩が亡くなった時間帯にどこにいらっしゃったのかなぁ? と思いまして」
「……何よ、バカにしてんの!?」
「いいえ、そんな事は決してないですよ」
あくまでも穏やかに話をしようという姿勢の要とは裏腹に、日吉は熱くなって喚き散らした。
「何よ刑事ゴッコでもしてるつもり!? 迷惑もはなはだしいわ! 大体どうして高村の死と私が関係してるみたいに言われなきゃならないの!? いいかげんにしてよね!! ただでさえ変な噂が流れてるっていうのに! 私は部活で忙しいのよ!!」
そう日吉がまくしたてている時、由希は日吉の背後を見て目を丸くし、一瞬小さく身震いをしたが、それに気づいたのはあかねだけだった。
「どうしたの由希?」
小声で様子を聞くあかねに、由希は弱々しく答えて俯く。
「な……なんでもない……よ」
「?」
あかねは怪訝に由希を見つめた。
すると、冷静な要の声が耳に届く。
「噂って、どんな噂なんですか?」
「あら? 情報の毒蜘蛛でも知らない事ってのがあんのね」
「ええ、まあ。それで?」
にこやかに笑いながら、次を促した要に日吉は「仕方ないわね」と言って続けた。
「私が、皆元を美術準備室に押し入れた、って噂よ」
『え?』
4人はいぶかしがって日吉を見た。
その様子を見て、日吉はため息をついて頬を掻く。
「誰だか知らないけど、最近そんな噂流してる奴がいんのよ。失礼だと思わない? 確かに私は厳しいところはあるかも知れないけど、皆元は私の友達だったのよ! そんなことするわけないじゃない!」
強くそう主張する日吉は、どこか怒りを帯びていたように感じられた。
その日吉を真っ直ぐに見て、真剣な表情で要は聞く。
「じゃあ、貴女は皆元先輩とあの部屋に入ったことはないんですか?」
その真っ直ぐな瞳を、日吉は強く見返した。
「いいえ。入ったことがあるのは、事実だわ。でも、押し入れたりなんかしてない。本当よ」
「……それじゃ、その時の部屋の様子とか、どうやって行く事になったのか教えて頂けますか?」
日吉は「ふう」と深く息をして、寂しそうに話し始める。
「……私はあの日、部活が終わってから、教室へ戻ったの。日直だった皆元が、私の事を待っててくれたから。それで、帰ろうかって思った時に思い出したのよ。ドッペルゲンガーの噂の事。それで言ったの、噂が本当か確かめてみない? て。でも、あの子は嫌がっていたわ、怖がりだったからね。でも、私が強くお願いしたから……最終的には渋々承諾してくれたの」
「だけど」と、日吉は続ける。
「あんなとこに、誘わなきゃ良かった!!」
そう吐き捨てるように言うと、顔を両手で覆い、嗚咽し始める。
「私が……誘わなきゃ、あの子は……榎木にあんなこと言われなかったし、死ぬこともなかったの……! ……なかったのよ!!」
そのまま咽び泣く日吉を、戸惑いながら4人は見つめた。
数十分してから、日吉は落ち着きを取り戻し、目を真っ赤にしながら部活に戻って行った。
「ちょお、本っ当にビビッたんだけど!」
あかねが苦笑しながら言うと、秋葉も苦笑いまじりで答える。
「だよなぁ」
しかし、要は冷静に指で唇をいじりながら、ボソっと一言呟いた。
「――結局、肝心なこと聞けなかったな」
そんな要のとなりで、由希は青ざめた顔で口元に手をおいていた。
「でもさぁ、呉野先輩と言っている事違くない?」
「だよな。……あの呉野先輩って臆病なんだろ? もしかしたら、誰かに脅されてんじゃねぇの?」
「脅されてるって、誰によ?」
「それは、分かんねぇけど。「押し込んでた」って噂流せって脅されえたんじゃねぇのかなって思っただけ。それに、最近その噂流れ出したんだろ?それっておかしくねぇか?」
「確かに。一理あるかもね、要はどう思う?」
秋葉と話していたあかねが、不意に要に意見を求めると、要は数回頷きながら「そうだね」と短く言って、由希に意見を求めようとした。
「由希は何か気づいた事ない?」
問いかけられた由希は、今にも倒れそうな青白い顔を要に向けた。
「ちょ!大丈夫?」
「え……? うん……」
「うん。じゃないじゃん! かなり具合悪そうじゃん!」
その声にあかねと秋葉も由希の顔を覗き込む。
「本当だ! 由希大丈夫?」
「おいおい、風邪か?」
「……ごめんね、さき……帰っていいかな?」
「全然良いいよ! すぐ帰ろう、一緒に帰ろ!」
要がそう言って、秋葉とあかねも力強く頷く、由希は申し訳なさそうに表情を曇らせた。
「――ごめんね……」
――事件はこれから、大きな展開を迎えることになる――
しかし、この時の4人は何も知らずにいた。
「何なの!? いきなり押しかけてきて!」
「すみません。日吉先輩」
にこやかに要が謝る。
日吉を連れて来た場所は第二体育館の体育館裏だ。第二体育館でバスケ部が練習をしていて、たまたま休憩時間だったので、裏まで来てもらったのだ。
しかし、日吉はかなり不機嫌に4人をギロリと睨みつけながらタオルで汗を拭いた。
「実はですね、高村先輩が亡くなった時間帯にどこにいらっしゃったのかなぁ? と思いまして」
「……何よ、バカにしてんの!?」
「いいえ、そんな事は決してないですよ」
あくまでも穏やかに話をしようという姿勢の要とは裏腹に、日吉は熱くなって喚き散らした。
「何よ刑事ゴッコでもしてるつもり!? 迷惑もはなはだしいわ! 大体どうして高村の死と私が関係してるみたいに言われなきゃならないの!? いいかげんにしてよね!! ただでさえ変な噂が流れてるっていうのに! 私は部活で忙しいのよ!!」
そう日吉がまくしたてている時、由希は日吉の背後を見て目を丸くし、一瞬小さく身震いをしたが、それに気づいたのはあかねだけだった。
「どうしたの由希?」
小声で様子を聞くあかねに、由希は弱々しく答えて俯く。
「な……なんでもない……よ」
「?」
あかねは怪訝に由希を見つめた。
すると、冷静な要の声が耳に届く。
「噂って、どんな噂なんですか?」
「あら? 情報の毒蜘蛛でも知らない事ってのがあんのね」
「ええ、まあ。それで?」
にこやかに笑いながら、次を促した要に日吉は「仕方ないわね」と言って続けた。
「私が、皆元を美術準備室に押し入れた、って噂よ」
『え?』
4人はいぶかしがって日吉を見た。
その様子を見て、日吉はため息をついて頬を掻く。
「誰だか知らないけど、最近そんな噂流してる奴がいんのよ。失礼だと思わない? 確かに私は厳しいところはあるかも知れないけど、皆元は私の友達だったのよ! そんなことするわけないじゃない!」
強くそう主張する日吉は、どこか怒りを帯びていたように感じられた。
その日吉を真っ直ぐに見て、真剣な表情で要は聞く。
「じゃあ、貴女は皆元先輩とあの部屋に入ったことはないんですか?」
その真っ直ぐな瞳を、日吉は強く見返した。
「いいえ。入ったことがあるのは、事実だわ。でも、押し入れたりなんかしてない。本当よ」
「……それじゃ、その時の部屋の様子とか、どうやって行く事になったのか教えて頂けますか?」
日吉は「ふう」と深く息をして、寂しそうに話し始める。
「……私はあの日、部活が終わってから、教室へ戻ったの。日直だった皆元が、私の事を待っててくれたから。それで、帰ろうかって思った時に思い出したのよ。ドッペルゲンガーの噂の事。それで言ったの、噂が本当か確かめてみない? て。でも、あの子は嫌がっていたわ、怖がりだったからね。でも、私が強くお願いしたから……最終的には渋々承諾してくれたの」
「だけど」と、日吉は続ける。
「あんなとこに、誘わなきゃ良かった!!」
そう吐き捨てるように言うと、顔を両手で覆い、嗚咽し始める。
「私が……誘わなきゃ、あの子は……榎木にあんなこと言われなかったし、死ぬこともなかったの……! ……なかったのよ!!」
そのまま咽び泣く日吉を、戸惑いながら4人は見つめた。
数十分してから、日吉は落ち着きを取り戻し、目を真っ赤にしながら部活に戻って行った。
「ちょお、本っ当にビビッたんだけど!」
あかねが苦笑しながら言うと、秋葉も苦笑いまじりで答える。
「だよなぁ」
しかし、要は冷静に指で唇をいじりながら、ボソっと一言呟いた。
「――結局、肝心なこと聞けなかったな」
そんな要のとなりで、由希は青ざめた顔で口元に手をおいていた。
「でもさぁ、呉野先輩と言っている事違くない?」
「だよな。……あの呉野先輩って臆病なんだろ? もしかしたら、誰かに脅されてんじゃねぇの?」
「脅されてるって、誰によ?」
「それは、分かんねぇけど。「押し込んでた」って噂流せって脅されえたんじゃねぇのかなって思っただけ。それに、最近その噂流れ出したんだろ?それっておかしくねぇか?」
「確かに。一理あるかもね、要はどう思う?」
秋葉と話していたあかねが、不意に要に意見を求めると、要は数回頷きながら「そうだね」と短く言って、由希に意見を求めようとした。
「由希は何か気づいた事ない?」
問いかけられた由希は、今にも倒れそうな青白い顔を要に向けた。
「ちょ!大丈夫?」
「え……? うん……」
「うん。じゃないじゃん! かなり具合悪そうじゃん!」
その声にあかねと秋葉も由希の顔を覗き込む。
「本当だ! 由希大丈夫?」
「おいおい、風邪か?」
「……ごめんね、さき……帰っていいかな?」
「全然良いいよ! すぐ帰ろう、一緒に帰ろ!」
要がそう言って、秋葉とあかねも力強く頷く、由希は申し訳なさそうに表情を曇らせた。
「――ごめんね……」
――事件はこれから、大きな展開を迎えることになる――
しかし、この時の4人は何も知らずにいた。