ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
要は由希から物体を預かって、授業が始まる前に家庭科室に行き、ホームルームと一時間目の授業をサボった。
一時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴ると同時に、薄いビニールの手袋をはめ、理科室をキョロキョロと覗く。
幸い、今の時間はどのクラスも理科室を使ってはいないらしく、理科室は静まり返っていた。
要は誰もいない理科室で、家庭科室にあった針で物体の血を削って、少量をチャックつきのビニール袋に入れた。これも家庭科室にあったものだ。
それから、理科室の薬品棚に手をかける。当然ながら、鍵が掛かっていて開かないはずなのだが、要は百も承知と、ヘアピンを取り出した。
黒いヘアピンを伸ばして折り曲げ、鍵の穴に入れる。――ガチャガチャ としばらく動かすと、扉に手をかけた。
薬品棚の扉は、ゆっくりと音もなく開く。
「よかった。ちょっと古いタイプの鍵で」
言って要は、アルミニュウムの粉末が入ったビンを取り出した。
それを少量、小皿に盛って、新しい筆につける。その筆を物体にポンポンとつけていく。
すると、指紋が浮かび上がってきた。
「まあ、大半は由希とあたしのだろうなぁ」
そう要は呟いて、浮かび上がった指紋を携帯のカメラで撮り、セロハンテープを指紋部分に貼り付けた。
そうやって指紋を採取して、真新しい紙に貼り付ける。それをビニール袋に詰めた。
それから、物体を水で流してみたが、固まった血は中々落ちなかった。お湯で落とす事も考えたが、固まった血液はお湯で落とすと余計に固まるというのを聞いたことがあった事を思い出し、これを止めた。
要は、ふうっと息を吐き出した。
「しょうがない、待つか」
それから放課後になるのを待って、部室前のトイレの洗面台で水を張り、これまた家庭科室から拝借した漂白剤を垂らして入れた。
「1時間は待たなきゃなぁ」と呟いて、要はトイレのドアに『故障中・入るべからず』と書いた紙を貼り付けた。そして誰も入らないように、トイレのドアの前で待った。
途中何人か生徒がきたが「故障中だってさぁ」と言って他のトイレへ促した。そうやって1時間が過ぎ、物体を覗いてみると、物体の正体が判明した。
それは、何の変哲もない、ただのお守りだった。しかし、よほど強い力で握られたのか、はたまた踏まれたのか、お守りは斜め半分に折れ曲がっていた。
「ふむ……」
要は頭をひねりながら、とりあえず物体、お守りをドライヤーで乾かす。これは、おしゃれに命を捧げる、いかにもギャルなクラスメートの宇野さんに頼み込んで(半ば脅して)借りてきたものだ。
乾いてきたら、要は拝借していたアルミニュウム粉末が入っているビニール袋を取り出し、先程と同じようにして指紋採取を試みた。
しかし、漂白剤を使ったためか、指紋は採取出来なかった。
「……ああ、やっぱりね」
要は残念そうに呟いて、軽く肩を落とした。
それから、みんなが待っている部室に戻っていった。