ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「あのこれ、どなたのかご存じないでしょうか?」

あかねが声をかけた少女は2人組だった。

「……知らないよね?」

「うん、見たことないね」

2人はそう言い合うと「じゃあ」と言ってその場を去った。

「ありがとうございました」

2人の背中にあかねはお礼を言うと「ふう」と一息つく。
あかねが担当したエリアは校内で、人が集まっている文化部の部室近くの廊下で聞いて回っていた。

さすがに部活中の部室にズシズシ入っていく勇気はなく、廊下で出てくる人を待っていたり、通った人に聞いたりしていた。

「こういう時、要ならズシズシ入って行っちゃうんだろうなぁ」

うらやましくもあり、恥ずかしくもあるな、とあかねは思う。

また「ふう」と息を吐いて、窓から外を眺めると、中庭で要が聞き込んでいる姿が見えた。
要は次から次に気楽に声をかけては「知らないなぁ」と言われていた。

時には、ベンチで本を読んでいる生徒の横に座って、本を読むのを邪魔しつつ、聞き込みをしていたり、時には「毒蜘蛛だ!」と逃げられたり、逃げた少女達を捕まえて楽しそうに、にやにや笑いながら聞き込みをしたりしていた。

「……なにやってんだか」

半ば呆れながら、あかねは苦笑した。

すると、そんなあかねに声をかけてきた人物がいた。

「沢松さんじゃない」

「え?」

振り向くと、そこにいたのは榎木だった。

「榎木先輩」

「こんなところでどうしたの? 生徒会とか、クラブとかは今日はおやすみ?」

「いえ……違うんですけど」

生徒会の仕事をはやく切り上げてきたので、後ろめたい気持ちであかねは苦笑する。

「先輩は、どうして文化部の部室に?」

「ああ、友達がいるのよ。なんだか、ご自宅で霊現象があるそうだから、ちょっと相談にのってから剣道部に行こうと思って」

「そうなんですか」

あかねが言うと、榎木は思いついたかのように「ああ、そうだ」と言って、微笑む。

「あなた達、また変な事やってるんですって? 何かを聞きまわってるって聞いたわよ。なんなの?」

「あ、いえ……それが……これなんですけど」

歯切れ悪く言って、あかねが携帯を取り出すと、榎木は覗き込むようにして写真を見つめた。

「……」

「ご存知ですか?」

「いいえ、見たこともないわ。なんなのこれ? お守り?」

「ええ、多分――」

また歯切れ悪くあかねが答えると、榎木は「あなた達も大変ね」と言って、手をふって茶道部の部室へ入っていく。その姿を見送るようにして、あかねは礼を言った。

「ありがとうございました」

< 48 / 109 >

この作品をシェア

pagetop