ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「あたしの証言が気にくわないんでしたら、こんな物もありますよ」

語り終えた要がそう言うと、由希はオズオズとボイスレコーダーを取りだした。
スイッチを押すと ジジッという音がして要の証言と同じ内容が流れ始めた。
適当なところでストップボタンを押すと、榎木は呆れ交じりにため息を吐いた。

「……録ってたの……。用意周到ね、怪団さん」

「ええ、まあ」

要は少し誇らしげに言って、軽く頷く。
そんな要を見て、榎木は「だけどね」と言って続けた。

「それがなんだっていうの? 呉野がそれを書いたという証拠にはならないはずよ?」

「証拠になりますよ」

言ったのはあかねだった。

「筆跡鑑定をしてもらえば、一目瞭然ですね」と、要が付け足す。
この要の発言に対して、榎木は少しの間沈黙をし「そうね」と肯定した。

「確かに、筆跡鑑定をしてもらえば、呉野のものか、そうでないかは明白ね。仮に呉野の物だったとしましょう。――それで? 呉野の事件と何の関係があるの? 今の春枝の証言で判ったことは、お守りが誰の物であるかという事と、春枝は呉野の顔を知っていたという事だけね」

冷静に現状を分析して言う榎木に、要は「そうですね」と答えた。そんな要を一瞥して、榎木は続ける。

「呉野は事故か、自殺未遂よ――殺人未遂じゃないわ」

そう吐き捨てるように言った榎木に、要は「果たしてそうでしょうか?」と投げかけた。

「事故ならばわざわざあんな閑散としたビル、しかも夜には不良の溜まり場に一変するビルに、あの怖がりな呉野先輩が行くでしょうか? 自殺未遂なら解らなくもないですが、そんな予兆はありましたか? 少なくともあたしの目には自殺するようには見えませんでした」

冷静に言う要に、榎木もまた冷静に答えた。

「自殺の予兆なんて、よっぽど親しくったって見逃す事はあるわ。自分の心が弱っている事を、人は隠したがるものじゃない?」

「確かに」と要は言って、続ける。

「そういうものかも知れません。しかし、呉野先輩は違います――これを見てください」

言って、かざした物は例のお守りだった。

「これ、どこにあったと思います?」

要の問いに、榎木は――分からないわ、とだけ答えた。

「日吉先輩の殺害現場に落ちていたんです」

一瞬ぎくりと肩を震わすと榎木は、一言呟いた。

「……そう」

「これ、初め血が大量に付着していたんですよ。洗い流すさいに、その血の欠片を採取して、あたしの知り合いに刑事がいるんですけど、そいつに極秘に調べてもらったんです。そしたら案の定、日吉淳子のものでした」

要は「そして」と言って続ける。

「呉野先輩にこのお守りを見せた時に、彼女は明らかに様子がおかしかった。何かを知っていて隠しているようでした。その直後に、呉野先輩はあのような事になりました」

強い瞳で榎木を見る4人に、榎木は思わず視線を落とした。
そして「呉野が……」と呟いて、顔を上げる。

「呉野が私のお守りを盗んで置いておいたんだわ、きっと、そうよ! それで、後ろめたくて……自殺しようとしたんじゃない?」

「テメェ! いい加減にしろよ!?」

同意を求めるような榎木の瞳に、思わず秋葉は吼えた。榎木に飛び掛りそうになった秋葉を、あかねが必死に止める。
そんな2人を横目に、要はニヤリと口の端をゆがめた。

「もし呉野先輩が盗んで、あなたに罪を着せようとしたのなら、呉野先輩がわざわざ狼狽する必要はない――でしょ?」

おちゃらけるように言って、要は首を傾げた。その要の横に由希が来て、切り出す。
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