ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「先輩、あのビルに行った事はないって言いましたよね?」

「ないわ――私は、何もしてないのよ!」

秋葉の牽制が効いたのか、榎木は興奮したように息巻いて声を荒げた。
そんな榎木に、今度は要が口元に笑みを称えながら切り出すが、その目に色はなかった。

「これ、なんだと思います?」

そう言いながら、榎木に向かって見せたのは黄色い封筒だった。その封筒の中から、要は書類のようなものを取り出し、紙をめくってまた、榎木に向かって見せた。
そこには、指紋検査結果と書かれていた。

「見てください」

促されて、榎木は要の持っている書類に目を走らせて行く。

――指紋結果――。
吉原要・95%一致――
藍原美奈・99%一致――

――壁の指紋結果――
榎木夕菜――99%一致――。

「え?」
なに――? と、思わず唇からこぼれる。榎木はそのまま、無意識に目線をキョロキョロと動かした。
やがて、ごくりと生唾を飲み込むと、やっと一言口にする。

「吉原さん、これ――どういう事?」

「指紋結果というのは、お守りに付着していた指紋の事で、こちらの『壁の指紋』と書かかれているもの、これは――呉野先輩の事件現場となったビルの壁なんですよ。知り合いの刑事に『現場』や『お守りの指紋』って言わずに調べてもらったんで、指紋や、壁の指紋とだけ書いてあるんですけどね」

「なっ――え?」

混乱して二の句が告げない榎木を一瞥して、要は書類を黄色い封筒に戻した。そしてそんな要の代わりに、落ち着きを取り戻した秋葉がぶっきらぼうに言う。

「アンタ、このビルに行った事ないって言ったよな? じゃあ、なんでアンタの指紋が出るんだよ」

「それは――」

榎木は一瞬押し黙った。その後、気持ちを立て直すように強く言う。

「呉野は事故か自殺だわ! だって、あんなところから人が出られるわけないもの!」

「あんなところ?」

要が訝しがって効き返すと、榎木は「実はね」と続ける。

「あのビルに行ったことがないって言ったのは、嘘よ。行ったわ。でも、それは呉野があんな事になった後に行ったの! 私だって、呉野の事件を疑ったのよ、人に突き落とされたんじゃないかって――でも、あのビルから人に見られないように抜け出すのは不可能だったの。あなた達だって、行ったのなら分かるでしょう!?」

榎木の言葉を聞きながら、ふんふんと頷いていた要は、興奮したように同意を求めた榎木をにこりと笑って一蹴した。

「――この謎なら、とっくに解けてるんですよ」

「……なに?」

訳が分からないと言うように、目を丸くする榎木にかまわず要は続ける。

「解けてるんです。――まず犯人は呉野先輩を落とした後、正面入り口が騒ぎになることを予想していたました。だから犯人は二階に向います。そして二階のある窓に片足をかけ、三階の窓に手をかけました。そして体を持ち上げ、そのまま隣のビルの三階の窓のサッシに片足を引っ掛けて、また体を持ち上げます。そして廃ビルの三階窓に座るか立つかします。するとちょうど、隣のビルの三階、その場所は女子トイレです。そのビルの人に話を聞くとそのトイレの窓はいつも開けてあるそうです。もし開いていなくても、あらかじめ開けに行けば済むんですけどね――犯人はそうやってその女子トイレに移って、逃げたんですよ!」

「……そんなの出来るかどうか何て分からないじゃない!!」

そう怒鳴る榎木にあかねが「出来るんです」と静かに言ってこう続けた。

「私達も実際試しました。危険ですから一階で試して、隣の二階の窓を開けておいてもらいました。私達は秋葉意外全員165㎝以下な上運動なんてあまりしませんから、出来なかったんです。でも、何と秋葉は楽々こなしてしまったんですよ。先輩と同じだけタッパがあって、分野は違うけど先輩と同じだけ運動している秋葉だから出来たんです」

「ちなみに」と言って、秋葉が話を割った。

「要がさっき見せた壁の指紋は、二階と三階の間の『外側』の壁にあった指紋なんだぜ。先輩よ、なんで外側の壁にアンタの指紋があるんだよ。おかしいだろ? 現場を見に行っただけで――そんなところに指紋がつくかよ!!」

そう怒鳴った秋葉を、また飛び掛るのではないかとあかねは内心、心配して秋葉の服の裾を軽く握った。

「――証拠映像もありますよ」

言ったのは要で、要はスカートのポケットから、SDカードを取り出した。

「あたし達が試してる時の映像と――」

言いながら、SDカードを軽く振る。
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