ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
転校して数週間で、私は人気者になった。私の周りには人がたくさんいた。私の『霊感』は、『私は』――ここでも受け入れられたの。
嬉しかったし、楽しかった。でも、高校に上がってすぐ、私のクラスにはイジメがある事を知ったの。
――皆元綾香。
彼女は、存在感がなくって、他のクラスだった高村や、三枝がたまに様子を見にくる以外は、一人で教室の自分の席でじっとしてるような、暗い子だった。
だけど、クラスメイトは特別彼女を無視している様子はなかった。用がなければ話しかけないし、皆元ももしかしたらそれで良いと思っていたのかも知れない。
ずっと本ばかり読んでいたから。
私は――皆元が嫌いだった。『苦手』ではなく、嫌いだった。
だけど、どうかしようという気持ちはまるでなかったのよ。だけど、あの日――呉野が美術室に忘れ物をして、一緒に取りに戻ったあの日――日吉が皆元をイジメている現場を見てしまった。
「じゃあ、イジメがあったのは本当なんだ。」
榎木の言葉を受けて、要が納得混じりにそう言うと「そうよ」と榎木は頷いた。
「……ムカついたわ。胸が悪くなって、私は帰ったの」
「何で帰ったんだよ! 日吉先輩のことムカついたんだろ?」
秋葉がそう責めると、榎木は眉を顰めて、声を少し荒立てた。
「私が止めに入ったって皆元と日吉のあの性格だもの、イジメなんてなくなりゃしないわ! それに、私がムカついたのは、日吉じゃなくて皆元よ」
『皆元先輩が?』
あかねと由希の声が合わさる。
「そうよ……言ったでしょ? あの子、嫌いだったの。だから――!」
言いかけて、榎木は下唇をぐっと噛み締めた。怒りのような、憤りのような表情が浮かぶ。
そんな榎木に秋葉と由希が食って掛かりそうになるのを、2人の前に腕を伸ばして要が止めた。その様子を、ほっとした表情であかねが見つめるが、どこか残念そうでもあった。あかねも、榎木の態度に感じるものがあったのだろう。
榎木をまっすぐに、要は見つめた。その目にはやはり色はなかった。
「「押入れられた」の噂は?」
「……どうして広まったのかは知らないわ。でも、押し入れられていたのは本当よ」
「どうして噂は広がったのかしら?」
あかねがそう呟くと、あかね達の後ろ、つまり部屋の入り口から、突如声がかかった。
「――私が、答えるわ」
5人が一斉に振り返ると、そこにいたのは、三枝だった。
「三枝先輩!?どうして!?」
あかねが声を荒立たせて驚くと、三枝はゆっくりと部屋に入ってきた。
「あなた達が、この塔に入って行くのが見えたから、後をつけて来たの。ここに生徒が入るのは立ち入り禁止でしたからね」
そこでいったん区切り、三枝は眼鏡をくいっと上げた。
「声をかけようとしたのですが、榎木の声まで聞こえたので、タイミングを見失ってしまって」
冷静に、淡々と言葉を発する三枝に、「ハンッ」と鼻で笑って、からかう様な声を上げてから要はニヤリと笑った。
「ここは最上階だよ? 何でここに来るまでに声をかけなかったのさ?」
そんな要をヒヤリとした視線で一瞬見た後、三枝は皮肉を含んで言った。
「訳を知っていて、言うセリフですか? やはり、吉原、性格が悪いですね」
要は「あっははは!」としばらく爆笑した後「そりゃ、どうも三枝先輩♪」と言いながら不敵な笑みを浮かべた。そんな要を呆れたように三枝は一瞥した。
「え? なに? 要、どういうこと? 先輩も何か関わりがあるの?」
オロオロとあかねが聞くと、要は数回頷いて「まあ、あとは本人に聞きましょ♪」と口をすぼめて言った。そのすぐ後に、三枝はあかねをじっと見つめて謝罪した。
「……沢松、すみませんでした」
「え?」
すると今度は、榎木を見つめた。その瞳はどこか悲痛を含んでいる。
「榎木、まさか本当に貴方だとは……信じたくはありませんでした」
そう言った三枝を、榎木はギロリと睨みつけた。
「よく言うわ! 疑っていたくせに!」
「……確かに、私は榎木を疑っていました。だからこそ、あの時――」
何かを言いかけた三枝を「その前に!」と大きな声で要は遮った。
「噂が広がった理由を教えて頂けますか?」
その問いに、三枝は分かりましたと頷いた。
「……皆元と日吉の現場を見た私は、すぐに教師を呼んでこようと、職員室へと走りました。しかし、そこには人は居らず、部活の顧問ならまだ残っているだろうと、体育館へ行き、そこで片づけをしている教師を見つけ、訳を伝えぬまま、走りました。しかし、着いた時には誰もいなかったんです」
「なるほど」
要が一言そう呟くと、一瞬三枝は要を見てから、目線を下に向けて話し始めた。
「無事、誰かが助けてくれたのだろうと、ことを大げさにはしませんでした。……しかし、皆元が自殺し、その背景が気になった高村が、噂を流し始めたのです」
『高村先輩が!?』
5人が同時に驚くと、「ええ」と頷いた。
「私は、誰にも彼女がイジメられていた事を言えずにいました。――だって、私がその事を言えずにいたから、皆元が死んでしまったんじゃないかと――恐かったのです」
心痛を露にする三枝は「でも」と言って続けた。
「皆元の一回忌の時に、私は高村に皆元がイジメにあっていた事を、告白しました」
嬉しかったし、楽しかった。でも、高校に上がってすぐ、私のクラスにはイジメがある事を知ったの。
――皆元綾香。
彼女は、存在感がなくって、他のクラスだった高村や、三枝がたまに様子を見にくる以外は、一人で教室の自分の席でじっとしてるような、暗い子だった。
だけど、クラスメイトは特別彼女を無視している様子はなかった。用がなければ話しかけないし、皆元ももしかしたらそれで良いと思っていたのかも知れない。
ずっと本ばかり読んでいたから。
私は――皆元が嫌いだった。『苦手』ではなく、嫌いだった。
だけど、どうかしようという気持ちはまるでなかったのよ。だけど、あの日――呉野が美術室に忘れ物をして、一緒に取りに戻ったあの日――日吉が皆元をイジメている現場を見てしまった。
「じゃあ、イジメがあったのは本当なんだ。」
榎木の言葉を受けて、要が納得混じりにそう言うと「そうよ」と榎木は頷いた。
「……ムカついたわ。胸が悪くなって、私は帰ったの」
「何で帰ったんだよ! 日吉先輩のことムカついたんだろ?」
秋葉がそう責めると、榎木は眉を顰めて、声を少し荒立てた。
「私が止めに入ったって皆元と日吉のあの性格だもの、イジメなんてなくなりゃしないわ! それに、私がムカついたのは、日吉じゃなくて皆元よ」
『皆元先輩が?』
あかねと由希の声が合わさる。
「そうよ……言ったでしょ? あの子、嫌いだったの。だから――!」
言いかけて、榎木は下唇をぐっと噛み締めた。怒りのような、憤りのような表情が浮かぶ。
そんな榎木に秋葉と由希が食って掛かりそうになるのを、2人の前に腕を伸ばして要が止めた。その様子を、ほっとした表情であかねが見つめるが、どこか残念そうでもあった。あかねも、榎木の態度に感じるものがあったのだろう。
榎木をまっすぐに、要は見つめた。その目にはやはり色はなかった。
「「押入れられた」の噂は?」
「……どうして広まったのかは知らないわ。でも、押し入れられていたのは本当よ」
「どうして噂は広がったのかしら?」
あかねがそう呟くと、あかね達の後ろ、つまり部屋の入り口から、突如声がかかった。
「――私が、答えるわ」
5人が一斉に振り返ると、そこにいたのは、三枝だった。
「三枝先輩!?どうして!?」
あかねが声を荒立たせて驚くと、三枝はゆっくりと部屋に入ってきた。
「あなた達が、この塔に入って行くのが見えたから、後をつけて来たの。ここに生徒が入るのは立ち入り禁止でしたからね」
そこでいったん区切り、三枝は眼鏡をくいっと上げた。
「声をかけようとしたのですが、榎木の声まで聞こえたので、タイミングを見失ってしまって」
冷静に、淡々と言葉を発する三枝に、「ハンッ」と鼻で笑って、からかう様な声を上げてから要はニヤリと笑った。
「ここは最上階だよ? 何でここに来るまでに声をかけなかったのさ?」
そんな要をヒヤリとした視線で一瞬見た後、三枝は皮肉を含んで言った。
「訳を知っていて、言うセリフですか? やはり、吉原、性格が悪いですね」
要は「あっははは!」としばらく爆笑した後「そりゃ、どうも三枝先輩♪」と言いながら不敵な笑みを浮かべた。そんな要を呆れたように三枝は一瞥した。
「え? なに? 要、どういうこと? 先輩も何か関わりがあるの?」
オロオロとあかねが聞くと、要は数回頷いて「まあ、あとは本人に聞きましょ♪」と口をすぼめて言った。そのすぐ後に、三枝はあかねをじっと見つめて謝罪した。
「……沢松、すみませんでした」
「え?」
すると今度は、榎木を見つめた。その瞳はどこか悲痛を含んでいる。
「榎木、まさか本当に貴方だとは……信じたくはありませんでした」
そう言った三枝を、榎木はギロリと睨みつけた。
「よく言うわ! 疑っていたくせに!」
「……確かに、私は榎木を疑っていました。だからこそ、あの時――」
何かを言いかけた三枝を「その前に!」と大きな声で要は遮った。
「噂が広がった理由を教えて頂けますか?」
その問いに、三枝は分かりましたと頷いた。
「……皆元と日吉の現場を見た私は、すぐに教師を呼んでこようと、職員室へと走りました。しかし、そこには人は居らず、部活の顧問ならまだ残っているだろうと、体育館へ行き、そこで片づけをしている教師を見つけ、訳を伝えぬまま、走りました。しかし、着いた時には誰もいなかったんです」
「なるほど」
要が一言そう呟くと、一瞬三枝は要を見てから、目線を下に向けて話し始めた。
「無事、誰かが助けてくれたのだろうと、ことを大げさにはしませんでした。……しかし、皆元が自殺し、その背景が気になった高村が、噂を流し始めたのです」
『高村先輩が!?』
5人が同時に驚くと、「ええ」と頷いた。
「私は、誰にも彼女がイジメられていた事を言えずにいました。――だって、私がその事を言えずにいたから、皆元が死んでしまったんじゃないかと――恐かったのです」
心痛を露にする三枝は「でも」と言って続けた。
「皆元の一回忌の時に、私は高村に皆元がイジメにあっていた事を、告白しました」