ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
一回忌が終わってから、私は高村を喫茶店に誘いました。
そんな私を、彼女は「めずらしい」と言って不思議がっていました。
テーブルに着くと、私は緊張から汗がじんわりと滲むのを感じた。
「た、高村……皆元は、日吉にイジメられていたんだと思う」
「え!?」
驚いた彼女を直視できなくて、私はテーブルの上の自分の手をただ見つめた。
「私、見たんだ。皆元が学校に来なくなる前に、日吉に美術準備室に押し入れられていたのを――」
そこまで言って、はっとなって顔を上げる。
「もちろん、すぐに助けを呼びに行ったわよ!?」
――言い訳がましいと思われたかも知れない。
私はそう思いましたが、高村は表情を変えず、依然として驚いた表情のままでした。
「あ――」
私が何か言わなくちゃと、口を開いた時だった。高村が表情を変えた。
「だって、敦子と綾香と、弘と私一緒の小学校で……敦子だって、私達と仲悪かったわけじゃないわよね? だっててっきり、敦子と綾香は仲良くやってるんだって……だってあの子言ってたわよね!? 敦子とは友達として、仲良くしてるって!」
明らかに混乱している高村をなだめようとした時、高村は何かに気づいたように、はっとなった。
「ねえ……皆元の所に、届いてたよね? 例の、あの――」
高村の問いかけに私は答えなかった。
――口に出して言いたくはなかったんです。
そんな私を一瞥して、高村は遠くを見つめた。
「そう、あれ……あれのせいで綾香は死んだのよね」
まだ遠くを見つめながら、物憂げな瞳をした高村は、悲しそうに語った。
そしてその表情を一変させた。怒りのままに、喫茶店のテーブルを叩く。
「私は、綾香のことをイジメた奴も、追いつめたやつも許さない!」
「ゆ、許さないって……なにをするつもり?」
「何をって……そんなの分かんないけど、とりあえず謝ってもらう!」
「謝るって、綾香はもう――」
「綾香のお墓の前で土下座してもらうわ!!」
「高村、貴女の気持ちは解る。しかし、日吉はあんな性格だし、追い詰めた者といっても、検討はついてるの?」
「そうね……」
そう呟いて、彼女は言葉を濁した。
「それが今から1年と数ヶ月前の事です。高村が噂を流し始めたのが、今から3ヶ月程前になりますね」
そう言って、三枝は悲しげに笑った。
「高村が何かを調べているのには気づいていました。だけど、私は一緒になって調べる事はしませんでした。出来るのなら、そんな事はやめて欲しかった」
「やめて欲しかった?」
あかねがオウム返しに聞くと、三枝は頷いて悲しげに眉間にしわを寄せる。
「皆元を失って、この上……高村が、何か危険なことにでも巻き込まれたらと思うと……でも、私は言えなかった。高村の、真剣な表情を見たら……何も……」
言葉を詰まらせた三枝に、美奈は少し気まずそうに尋ねる。
「……た、高村先輩は、何故……噂を流したんですか?」
「……噂を広めた理由の一つは『日吉を困らせる』まあ……嫌がらせですね。もう一つの理由は『呉野か、榎木か、見定める為』だったんだと思います」
「見定める?」
秋葉が顔を顰めてそう聞くと、三枝は静かに頷いた。
「ええ、皆元を助けた相手はどちらか、そして追い詰めた相手はどちらか――」
「どちらか?」
「ええ。あの日、私は呉野と榎木が居た事に気づいていなかったんです。だから、私以外に目撃した者はいないと思っていました。しかし、高村は調べ上げて、2人が目撃していた事を知った」
そう言って、三枝は榎木を一瞥した。榎木は、俯きながら両手の拳をぎゅっと握り締めていた。
「一回目の、一昨年に流れた『日吉と皆元が美術室に入った』という噂を流したのは十中八九、日吉でしょう。彼女は目立ちたがり屋でしたから、そして――榎木はその噂を利用した……」
「え?」
意外そうな表情の要以外の4人を一瞥して、三枝は榎木を見る。
榎木は黙ったまま俯いていた顔を上げた。
「利用したなんて……人聞きが悪いわね。見えたままを、言ったのよ」
「榎木先輩が、皆元先輩に言った『憑いている』発言ですね?」
要に問われて、三枝は静かに頷いた。
「嫌いだったから――だから、利用したんですよね。自分の能力を、もっと認めさせるために――」
「だから、言ってるでしょう!? 見えたから言ったのよ! 口が滑ったの! あんな事で――まさか死ぬなんて思わないじゃない!」
声を荒立てて言う榎木は、今にも泣き出しそうだった。
その姿を見て、三枝は静かに俯いた。その表情を、要達はうかがい知る事は出来なかったが、三枝の眼鏡の奥の瞳は、重苦しく、闇を映したような、黒い憎しみの色が混ざる。
皆元の――静かにそう言いながら、三枝は顔を上げる。
「皆元のところには、脅迫状が送りつけられていたんです」
「え!?」
その発言には、その場にいる全員が目を丸くして驚いた。榎木に限ってだけ、その驚きの種類が違った。ぎくりとした突き刺さるような感情が混じる。
「彼女の日記に、書かれているたんです。この事を知ってるのは、警察とご家族以外は、私と高村だけですが――」
そんな私を、彼女は「めずらしい」と言って不思議がっていました。
テーブルに着くと、私は緊張から汗がじんわりと滲むのを感じた。
「た、高村……皆元は、日吉にイジメられていたんだと思う」
「え!?」
驚いた彼女を直視できなくて、私はテーブルの上の自分の手をただ見つめた。
「私、見たんだ。皆元が学校に来なくなる前に、日吉に美術準備室に押し入れられていたのを――」
そこまで言って、はっとなって顔を上げる。
「もちろん、すぐに助けを呼びに行ったわよ!?」
――言い訳がましいと思われたかも知れない。
私はそう思いましたが、高村は表情を変えず、依然として驚いた表情のままでした。
「あ――」
私が何か言わなくちゃと、口を開いた時だった。高村が表情を変えた。
「だって、敦子と綾香と、弘と私一緒の小学校で……敦子だって、私達と仲悪かったわけじゃないわよね? だっててっきり、敦子と綾香は仲良くやってるんだって……だってあの子言ってたわよね!? 敦子とは友達として、仲良くしてるって!」
明らかに混乱している高村をなだめようとした時、高村は何かに気づいたように、はっとなった。
「ねえ……皆元の所に、届いてたよね? 例の、あの――」
高村の問いかけに私は答えなかった。
――口に出して言いたくはなかったんです。
そんな私を一瞥して、高村は遠くを見つめた。
「そう、あれ……あれのせいで綾香は死んだのよね」
まだ遠くを見つめながら、物憂げな瞳をした高村は、悲しそうに語った。
そしてその表情を一変させた。怒りのままに、喫茶店のテーブルを叩く。
「私は、綾香のことをイジメた奴も、追いつめたやつも許さない!」
「ゆ、許さないって……なにをするつもり?」
「何をって……そんなの分かんないけど、とりあえず謝ってもらう!」
「謝るって、綾香はもう――」
「綾香のお墓の前で土下座してもらうわ!!」
「高村、貴女の気持ちは解る。しかし、日吉はあんな性格だし、追い詰めた者といっても、検討はついてるの?」
「そうね……」
そう呟いて、彼女は言葉を濁した。
「それが今から1年と数ヶ月前の事です。高村が噂を流し始めたのが、今から3ヶ月程前になりますね」
そう言って、三枝は悲しげに笑った。
「高村が何かを調べているのには気づいていました。だけど、私は一緒になって調べる事はしませんでした。出来るのなら、そんな事はやめて欲しかった」
「やめて欲しかった?」
あかねがオウム返しに聞くと、三枝は頷いて悲しげに眉間にしわを寄せる。
「皆元を失って、この上……高村が、何か危険なことにでも巻き込まれたらと思うと……でも、私は言えなかった。高村の、真剣な表情を見たら……何も……」
言葉を詰まらせた三枝に、美奈は少し気まずそうに尋ねる。
「……た、高村先輩は、何故……噂を流したんですか?」
「……噂を広めた理由の一つは『日吉を困らせる』まあ……嫌がらせですね。もう一つの理由は『呉野か、榎木か、見定める為』だったんだと思います」
「見定める?」
秋葉が顔を顰めてそう聞くと、三枝は静かに頷いた。
「ええ、皆元を助けた相手はどちらか、そして追い詰めた相手はどちらか――」
「どちらか?」
「ええ。あの日、私は呉野と榎木が居た事に気づいていなかったんです。だから、私以外に目撃した者はいないと思っていました。しかし、高村は調べ上げて、2人が目撃していた事を知った」
そう言って、三枝は榎木を一瞥した。榎木は、俯きながら両手の拳をぎゅっと握り締めていた。
「一回目の、一昨年に流れた『日吉と皆元が美術室に入った』という噂を流したのは十中八九、日吉でしょう。彼女は目立ちたがり屋でしたから、そして――榎木はその噂を利用した……」
「え?」
意外そうな表情の要以外の4人を一瞥して、三枝は榎木を見る。
榎木は黙ったまま俯いていた顔を上げた。
「利用したなんて……人聞きが悪いわね。見えたままを、言ったのよ」
「榎木先輩が、皆元先輩に言った『憑いている』発言ですね?」
要に問われて、三枝は静かに頷いた。
「嫌いだったから――だから、利用したんですよね。自分の能力を、もっと認めさせるために――」
「だから、言ってるでしょう!? 見えたから言ったのよ! 口が滑ったの! あんな事で――まさか死ぬなんて思わないじゃない!」
声を荒立てて言う榎木は、今にも泣き出しそうだった。
その姿を見て、三枝は静かに俯いた。その表情を、要達はうかがい知る事は出来なかったが、三枝の眼鏡の奥の瞳は、重苦しく、闇を映したような、黒い憎しみの色が混ざる。
皆元の――静かにそう言いながら、三枝は顔を上げる。
「皆元のところには、脅迫状が送りつけられていたんです」
「え!?」
その発言には、その場にいる全員が目を丸くして驚いた。榎木に限ってだけ、その驚きの種類が違った。ぎくりとした突き刺さるような感情が混じる。
「彼女の日記に、書かれているたんです。この事を知ってるのは、警察とご家族以外は、私と高村だけですが――」