ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
そう言うと悲しそうに眉を顰めた。

「……そんな事が……」

あかねは眉を顰(ひそ)めて、哀しげに顔を歪める。

「さっきあなたが言ってた『追いつめた者』とは、その脅迫状を送った人物の事ですね?」

要が冷静に聞くと三枝は「ええ」と頷いた。

「結局、追いつめた者は誰だったんですか?」
要の確信をつく質問に、三枝は「それは」と少し言葉を濁した。

「――私は、その事について、聞かされてはいないんです。誰が、脅迫文を送りつけたのか、私には分かりません。ただ、私自身は呉野や、日吉ではないと思っているんです。ただ、榎木である事も――考えられなかった」

苦心する三枝を秋葉は見つめて、怪訝に言った。

「なんで日吉先輩じゃないと思ったんだ? 高村先輩も、呉野先輩か榎木先輩だと思ってたんだろ? 俺は、言っちゃなんだが、日吉先輩が一番『らしい』と思うんだけど」

その質問に、三枝は冷静に答えた。しかし、その言葉の端は、どこか軽蔑が含まれている。

「あの人は、案外小心者なんです。だから表立ってイジメたりする事は無いんですよ。目立ちたがり屋のくせに、誰かに便乗しないと何も出来ない人なんです」

その答えを聞いて、要は軽く頷いた。

「なるほど、だから嫌がらせの手紙は率先して書くことはないだろうと?」

「ええ、自分からやろうとはしないでしょう。誰かが、初めに出さない限りは――」

誰にも見られないように、榎木は顔を背けた。大きくひとつ肩で息をする。生唾を飲み込んで、ゴクリと喉が鳴った。

「なるほど」

要がぽつりと呟いて、三枝に答えを促す。

「で? 先輩は結局、誰が送りつけたんだと思います? ひとつの結論は、出ていますよね?」

「私は――」

言いづらそうに、三枝は言葉を詰まらせた。そして、その名を口にする。

「……榎木が、そうなのではないかと……」

「なるほど。だから、駅に行ったんですね?」

「!?」

驚いて要を見つめる三枝に、要はキョトンとした表情で問いかけた。

「さっき言いかけた「だからこそ、あの時」とは、そういう意味じゃないんですか?」

三枝は、驚いた表情をゆっくりと元に戻し、「ええ」と答えた後、訳が分からずにキョトンとしている4人を見た。榎木は眉を顰め睨むように三枝と要を見た。

そんな者達を一瞥してから、ゆっくりと三枝は過去を振り返った。

「あの日、高村が死んだ日――」
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