ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「私、今日待ち合わせしてるの」
「え?」
裏庭の温室の花に水をやりながら、彼女は突然そう言った。
「誰と?」
私の質問に、高村は答えなかった。
「……うん、まあね」
短くそう言って、暫く押し黙った。おしゃべりな高村が作った、普段にはない妙な間に、私はなんだか不安を感じた。
「――誰となの?」
私がもう一度、今度は少し強く聞くと、高村は軽く笑った。
「弘に迷惑かけたくないからさ、今は言わない。――ごめんね」
「迷惑なんて!」
「確かめに行くだけなの」
――確かめって?
言いかけて、私は尋ねるのをやめた。
皆元の脅迫文の事だということは、すぐに解った。
「……高村――」
――皆元の事だったら、私も行く。
そう言う前に、高村は私の言葉を遮った。
「弘は、今日生徒会の会議あるでしょ? だから、私が確かめてきて……それで結果を教える。そのあとに、2人でどうするか決めよう?」
その言葉と、高村の笑顔に私は思わず頷いてしまった。
「それにしても、貴女がドッペルゲンガーを試す意味があったのかしら?」
私がそう呟くと、高村はにこやかに笑った。
「あるわよ! そうでなきゃ『高村はもう一人の自分を見た』って噂流せないじゃない!」
「だから、その噂を流す意味がどこにあるの?」
心底疑問に思いながら、私が聞くと、高村はにこりと微笑んだけど、その目はどこか冷たかったのを覚えている。
「そんなの、ただの嫌がらせよ。榎木があんな事を言ったせいで綾香が追いつめられるきっかけを作ったんだもの――せいぜいその事を思い出せばいいのよ」
そう言って、微笑んだ顔を解いて目線を花に向ける。
(解るよ、解るけど……)
手放しでその行為を喜んだり、応援したりする事が、私には出来なかった。背徳感とか、そういう事でもなく、私はただ、漠然とした不安を抱えた。
「――カマかけてやる」
「え?」
呟いた高村の声を、私は聞き取る事が出来なかった。聞き返した私の問いを、高村が返す事はなかった。
――ただ、にこやかに微笑んだだけだった。
遠い目をしながら、三枝は――あの時の笑顔が、忘れられないわ、と言った。
「高村先輩がもう一人の自分を見たって噂、高村先輩自信が流したんですか!?」
驚いたあかねがそう聞くと、三枝は静かに頷く。
「ええ、だから、高村はドッペルの事で何を聞かれても一切否定はしなかったわ」
それを聞いた要は、なるほどと呟いた。
「それから数時間が経ち、放課後になって、私はひどく気持ちを乱されていたの」
私は強い不安感に捕らわれながら、生徒会室へ向かった。
ドアを開けると、もうすでに数人の生徒会委員が集まっていた、そこに沢松もいて、沢松は座っていた椅子から立って、にこやかに私に挨拶をしてまた椅子に座りなおした。
私も自分の席に着くと、カバンを机のフックに掛けようとした。
「あっ」
そこで私は手をすぺらせ、カバンを落としてしまった。
(ああ……)
やってしまった――と、カバンを拾おうとした時、カバンから飛び出たある物に目を奪われた。それは、一枚の写真だった。
高村と皆元と私で、高校の入学式に門の前で取った写真……。
思わず私は、生徒会室を出た。
そして、一心不乱に駆け出した。
廊下を走ってはいけない、母に口をすっぱくしてよく言われたけれど、この時だけはそんなものどうでも良かった。
駅に向かう途中走りながら、高村の姿を捜したけれど、高村を見つける事が出来なかった。駅について辺りを見回すと、知り合いの顔が目に飛び込んできた。
「榎木!」
私は一目散に、時計の下にいた榎木へと駆け寄ると、榎木は私を驚いたように見た。
「どうしたの? そんなに息切らせて」
言われて初めて、自分の呼吸が荒い事に気がついた。ぜぇー、ぜぇーと肩で大きく息をする。
「いえ……あの、高村見ませんでした?」
「え?」
裏庭の温室の花に水をやりながら、彼女は突然そう言った。
「誰と?」
私の質問に、高村は答えなかった。
「……うん、まあね」
短くそう言って、暫く押し黙った。おしゃべりな高村が作った、普段にはない妙な間に、私はなんだか不安を感じた。
「――誰となの?」
私がもう一度、今度は少し強く聞くと、高村は軽く笑った。
「弘に迷惑かけたくないからさ、今は言わない。――ごめんね」
「迷惑なんて!」
「確かめに行くだけなの」
――確かめって?
言いかけて、私は尋ねるのをやめた。
皆元の脅迫文の事だということは、すぐに解った。
「……高村――」
――皆元の事だったら、私も行く。
そう言う前に、高村は私の言葉を遮った。
「弘は、今日生徒会の会議あるでしょ? だから、私が確かめてきて……それで結果を教える。そのあとに、2人でどうするか決めよう?」
その言葉と、高村の笑顔に私は思わず頷いてしまった。
「それにしても、貴女がドッペルゲンガーを試す意味があったのかしら?」
私がそう呟くと、高村はにこやかに笑った。
「あるわよ! そうでなきゃ『高村はもう一人の自分を見た』って噂流せないじゃない!」
「だから、その噂を流す意味がどこにあるの?」
心底疑問に思いながら、私が聞くと、高村はにこりと微笑んだけど、その目はどこか冷たかったのを覚えている。
「そんなの、ただの嫌がらせよ。榎木があんな事を言ったせいで綾香が追いつめられるきっかけを作ったんだもの――せいぜいその事を思い出せばいいのよ」
そう言って、微笑んだ顔を解いて目線を花に向ける。
(解るよ、解るけど……)
手放しでその行為を喜んだり、応援したりする事が、私には出来なかった。背徳感とか、そういう事でもなく、私はただ、漠然とした不安を抱えた。
「――カマかけてやる」
「え?」
呟いた高村の声を、私は聞き取る事が出来なかった。聞き返した私の問いを、高村が返す事はなかった。
――ただ、にこやかに微笑んだだけだった。
遠い目をしながら、三枝は――あの時の笑顔が、忘れられないわ、と言った。
「高村先輩がもう一人の自分を見たって噂、高村先輩自信が流したんですか!?」
驚いたあかねがそう聞くと、三枝は静かに頷く。
「ええ、だから、高村はドッペルの事で何を聞かれても一切否定はしなかったわ」
それを聞いた要は、なるほどと呟いた。
「それから数時間が経ち、放課後になって、私はひどく気持ちを乱されていたの」
私は強い不安感に捕らわれながら、生徒会室へ向かった。
ドアを開けると、もうすでに数人の生徒会委員が集まっていた、そこに沢松もいて、沢松は座っていた椅子から立って、にこやかに私に挨拶をしてまた椅子に座りなおした。
私も自分の席に着くと、カバンを机のフックに掛けようとした。
「あっ」
そこで私は手をすぺらせ、カバンを落としてしまった。
(ああ……)
やってしまった――と、カバンを拾おうとした時、カバンから飛び出たある物に目を奪われた。それは、一枚の写真だった。
高村と皆元と私で、高校の入学式に門の前で取った写真……。
思わず私は、生徒会室を出た。
そして、一心不乱に駆け出した。
廊下を走ってはいけない、母に口をすっぱくしてよく言われたけれど、この時だけはそんなものどうでも良かった。
駅に向かう途中走りながら、高村の姿を捜したけれど、高村を見つける事が出来なかった。駅について辺りを見回すと、知り合いの顔が目に飛び込んできた。
「榎木!」
私は一目散に、時計の下にいた榎木へと駆け寄ると、榎木は私を驚いたように見た。
「どうしたの? そんなに息切らせて」
言われて初めて、自分の呼吸が荒い事に気がついた。ぜぇー、ぜぇーと肩で大きく息をする。
「いえ……あの、高村見ませんでした?」