ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
「高村さん? 見てないわよ」

榎木はそう言って不思議そうに首をひねる。

「っていうか、三枝さん今日会議だったよね? どうしたの?」

「あ、ああ、会議ですか? ええ、まあ、ちょっとサボってみました」

「へえ、真面目な三枝さんが珍しいねぇ。何か用事?」

「いえ、別に。……たまにはと思いまして」

「へえ、なるほど」

「榎木は誰かと、待ち合わせですか?」

「ええ」

「そうですか」

私がそう言うと、会話は一度途切れました。周りのざわめきだけが私達を包み、数秒が過ぎた時、私はふと思ったのです。

――待ち合わせ?

もしかして、榎木が高村の待ち合わせ相手? そう思ったら途端に不安が広がる。

「あの……もしかして、榎木の待ち合わせ相手って――高村ですか?」

「高村さん?」

榎木は怪訝そうに首を傾けた。

「――違うわよ」

言ってにこやかに笑った。

――そうか、そうなのか。
良かったような、残念なような、複雑な心持で私は床に視線を落とした。
しかし、私の中でなにか違和感のような、すっきりしない思いが渦巻くのを感じた。榎木の先程の笑顔が、なんだか引っかかった。
――この人は、なんだか変だ。
笑っていても、本当に笑ってはいないような、どこか演技をしているような……。
そんな疑念からか、不意に、ある言葉が私の口をついたのです。

「待ち合わせをしている方が、どんな方かは存じませんが、血迷った事はなさらないで下さいね」

そう言った後、放った言葉に私は驚愕し、思わず口を塞ぎました。
疑念や不安がああいった言葉になってしまったのでしょう。
私は、てっきり榎木はとても怒るか、怪訝そうに眉間にシワを寄せるかと思いました。
しかし、榎木はにこりと笑った。

「何の事か分からないけど、受け取っておくわ」

そこでも私は違和感を感じた。だけど、私は自分が放った言葉が恥ずかしくて、苦笑するしかなかった。
それから私は、逃げるようにその場を去ったんです。
それからは、高村を捜して駅の中や、駅の周辺を走り回りました。
しかし、高村を見つけることは出来なくて……私は自分に言い聞かせました。
この不安は、きっとただの思い過ごしだ――と。
ふと時計を見ると、時計は4時40分を指していました。
(今学校に戻れば、最後の会議内容にはぎりぎり間に合うか……)
私は高村に言われた事を思い出しました。

――弘は、今日生徒会の会議あるでしょ? だから、私が確かめてきて……それで結果を教える。そのあとに、2人でどうするか決めよう?

(――そうね、高村を信用しよう。彼女なら、大丈夫)
そう自分を納得させて、私は学校に戻りました。


――私はバカですね。私が高村を諦めたまさにその直後、彼女は死んだというのに――。
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