ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
あの日の昼休みの時間に、高村は私の教室へやってきた。
別にめずらしい事ではなかったのよ。彼女は部活の事で何回か私を訪ねてきた事があったから。だから、その日もてっきりそうなのかと思った。
でも、高村は真剣な表情で、今日駅の中の時計の前で待っていて欲しい、と言った。
私は何の事を言われるのか、想像もしていなかった。何かの相談かなくらいで、軽く受け止めてた。
放課後になって、待ち合わせがあるから部活は出ないで行こうと体育館に寄って、その事を伝えようとした時に、日吉に声をかけられた。

「榎木、ちょっと良い?」

言って彼女は私の腕を引っ張って体育館裏へ連れて行った。
そして耳打ちした。

「今日、高村と会うの?」

「ええ、会うわよ」

「そっか……」

日吉はそう一言呟いて、何かを考えるように俯いた。
どうしたの?と声をかける前に、日吉は私に向かい直った。

「まあ、いいや――じゃあね」

そうとだけ告げて、彼女は去っていった。

「本当に自分勝手ね」

呆れて呟いた声は、誰にも聞かれない事を小さく願った。
それから、ほんの少し時間を潰して駅へ向かった。数分待っていると、そこに現れたのは高村でなく、三枝だった。
三枝はひどく慌てたようすだった。めずらしいなと思いながら三枝が走ってくるのを眺めていると、三枝はいきなり「高村を見なかったか?」と訊ねた。
待ち合わせはしているけど、まだ姿を見てはいなかったから私は見ていないと答えた。
いつも冷静な彼女がこんなに汗だくになっているようすをめずらしく思いつつ、そういえば今日は会議があった事を思い出した私は、三枝に訪ねると、彼女はさぼったと言う。
本当に、めずらしい事もあるもんだと私は感慨深くいたわ。
それから少し喋って、待ち合わせ相手は高村か?と聞かれた時、私は一瞬

「そんなに高村が気になるのね」と思ったわ。でも、同時に思った。

――なんでそこまで?

あんなに冷静な三枝らしくもない行動、やたらに高村を気にし、何故捜しているのだろう……?
何かあるの?
深読みなのかもしれないけど、私はなんとなく不安になった。だから、とっさに嘘が口をついた。

「高村さん?――違うわよ」

ついた後に、これで良かったのかと少し思ったけれど、わざわざ待ち合わせまでして話したいことだもの、黙ってたほうが良いのよね。
そう私は自分に言い聞かせた。
そう思った時、三枝から思わぬ言葉を聞いた。

〝血迷った事はなさらないで下さいね〟

正直、何を言ってるのこの人?と思ったわよ。でも、私は上手く笑えてたと思う。その後三枝が気まずそうにその場を去っていった。
そのすぐ後に、高村がやってきた。驚いたわよ、だって、日吉が一緒にいたんだもの。
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