ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
あの後、家に着いてから、お守りが無いことに気がついて、現場に戻ったけど、警察がいたので、警察が引き上げるころを見計らって、お守りを探しにいった。
でも、やっぱり見つからなかった。
警察に持って行かれたんだろうと、思った。

――不安だった。
そんな矢先に、沢松から、私のお守りの写真を見せられた。
とても、驚いた。
まさか、彼女たちが持っているなんて。
だけど、警察に持っていかれなかっただけ、まだマシだわ。
あのお守りの事を知っている人なんて、この学校ではいないもの。
そう思っていた私のところに、呉野がやって来た。呉野はなんだか落ち込んだ様子で、私を裏庭に呼び出した。

「あのですね、榎木」

「なに?」

呉野は言いづらそうに、目線をキョロキョロと動かす。

「榎木、お婆さんに貰った、お守りどうしたですか?」

――お守り?
呉野に聞かれて初めて思い出した。昔、転校したばかりの頃に、呉野にお守りを見せた事があったのを――。
息が詰まるのを感じた。

「――どうしたって?」

「今も、持っているのですか?」

なんとなく、その言葉の端に切実なものを感じる。

――嫌な予感がする。

「……家に、置いてきているけど、それがなにか?」

私の言葉を聞いて、呉野はほっとした表情で一息ついた。

「そうですよね。良かった……。そうですよね」

「いったいどうしたの?」

不安を隠して、わざと明るく振舞った。
すると、あまりにも、意外な答えが返って来た。

「榎木、嘘ついたです」

呉野の表情が変わる。私を鋭い目で睨んだ。
ギクリとして、体が一瞬震えた。
――何だろう?
この、感じ。
血が凍る……。

「……は? 何が?」

私が言えたのは、それだけだった。

「榎木、あのお守りは榎木のです。ボクに前、見せてくれたコトがあったですよね?南春枝さんという人と、ボクにしか見せた事はないって言っていたですよね?」

毅然とした態度を崩さない呉野を私は見据えた。
――いつもの態度を崩してはいけない。平常心を装わなきゃ!

「……確かに、そうだけど。もしかして「あのお守り」って、沢松達が聞いて回ってたやつのこと?だったら、あれは私のじゃないわよ。あんなに汚れてないし、私のは本当に、家に置いて来てるんだから」

「だったら、見せて下さい!」

「え?」

「今日、榎木の家に行くです!」

「ちょっと待って――」

「榎木!」

めったに大声なんて出さない呉野が、大声を出して私の言葉を遮った。

「榎木、沢松達が持っていた「あのお守り」どこにあったと思いますか?」

「……さあ?」

心臓が波打つのを感じた。
――落ち着け!

「日吉の……殺害現場です」

「え!? 日吉って……学校は「亡くなった」としか言ってなかったけど?」

今のは、わざとらしくなかっただろうか?
私はちゃんと、笑えているだろうか?
そんな考えが頭を過ると、呉野は不審そうに私に尋ねた。

「顔の広いあなたが、聞いてないですか?」

「な、なぁに? そんな意外そうな顔しなくても――」

「みんなが言ってるですよ? 日吉は殺されたって! 近くの公園に取材の人も来てるです!」

「それが、そうだとしてなんの繋がりがあるっていうの?」

「榎木、日吉が殺された場所に、榎木のお守りにそっくりなお守りが落ちている。――何か、関わっているんじゃないですか?」

呉野の真剣な眼差しを受けて、焦燥は加速するばかりで、私の声は思わず震えた。

「……なんで? なんでそんな事言うの?」

「何でって、心配なんです」

「余計なお世話よ! 私は何も関係ない! 変な勘ぐり止めてちょうだい!」

私はそう吐き捨てて、その場から早足で去った。
その足ですぐに、怪しまれないために部活に出た。
その最中に、呉野が何か言いたそうな表情をして私を見つめてから、その場を去ったのを、私は尻目で見ていた。
そして部活の最中も、家路につく時も、部屋にこもってからも「どうしよう」か考えていた。
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