扇情
忘れるわけがない、耳元で囁かれるだけで腰がヘナヘナになっちゃうくらいの低音、艶声。
先生、と呼ばれているのは目下交際中であるはずの整形外科医、河合 悠樹。
その彼氏が他所の女に何を触らせてるのよって一瞬思ったけれど。
「…っ、…お前、ほんとに下手くそだな。」
「す、すいませんっ。」
「ったく、俺の手もそろそろ刺す所なくなってきたぞ。…白川。こいつに腕貸してあげてくれ。」
採血セットを片付けながら、とっても申し訳なさそうに俯いている研修医の美樹ちゃん。
今は、採血の猛特訓中らしい。
何しろ美樹ちゃん、なんで医者目指しちゃったの?ってくらい血が苦手。
いつも練習台になっている河合クンの両腕は、見るも無残に内出血だらけで。