扇情
廊下の角を曲がる瞬間、甘美な艶声が響く。
「葵。」
条件反射のように振り返ると、後ろに美樹ちゃんを従えた河合クン。
研修医の前で何名前呼んじゃってるの?
「何?」
不機嫌に短く返すと、ニヤッと口端を上げて耳元に近寄る顔。
「葵、すげーいい匂いする。…昨日の朝シた後の、みたいな?」
囁きついでにチュッとキスを落として、何事もなかったかのように歩いていく彼。
残されたのは瞬時に思い出して慌てる私と、何のことかうっすら気が付いて頬を赤らめている美樹ちゃん。
その声だけで欲情に揺れてしまう私。
…よかった、仕事終わりで。