愛いっぱいCHU
だけどなんだか・・胸騒ぎがする・・・。

これって・・・女の勘・・・?

「いいじゃない、教えてあげれば?和志」

陽子さんは低い笑みを浮かべてそう言った。

先生はようやく重たかった口を開く・・。

先生の表情はまるで何かを思い出しているような遠い目と暗闇の中で誰かを見つけたような・・切ない微笑みとでいっぱいだった。

時はすでに5時間目・・。

それでもその場の雰囲気は・・・ずっと変わらない。





「久住彩は・・俺の・・妻だ」

「・・・・け・・・っこんしてたの・・・?先生・・」

私はもう真っ白ではっきりいって人の話を理解する能力を今の一言で失った気分だった。

沙都の方を助けを求めるように見たけど・・・期待もむなしく沙都は私に無言でうなづいた。

「正確には・・・『だった』と言った方が正しいけど・・・」

先生は話を続ける。

「俺と・・・彩は高校一年のときに出会った。彩は出会ったときから不思議な女だった・・」

先生と彩さんは雨の降りしきる学校の近所の公園だったという。

当時寮で暮らしていた先生はちょうどその寮に帰るとこだったらしい。

「俺は・・帰りがけの公園で傘もささないで土砂降りの雨の中ただ立っていた彩を見つけた。

・・・どうして・・雨の中・・

「いまだになぜ彩が雨の中たたずんでいたのか・・・わからないけど・・俺はもうすでにその時から彩に惹かれて心を奪われていた」

あの・・・先生を一瞬で魅了させた彩さん・・。

心臓が震える・・。どれだけ魅力的だった人だろう・・・。

「触れたら壊れるガラス細工のような倉沢彩のことを心のどこかで守りたいと思うようになっていった」

先生がそんな激しい恋をしているとき、私はまだ10歳か11歳の世間が何も見えていなかった真っ白で・・・純で・・佐倉直哉とも、久住沙都とも出会っていない小さな女の子だった。

それから先生はまた淡々と話し始めた。

出会ったその日その時その瞬間から恋におちた先生と彩さんはそれからつき合うこともなく・・・まるでカラダだけの関係だったらしい・・・。


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