センセイと一緒 ~feel.White~



「あいつはプロではないですが、能楽協会から誘いが来るほどの腕を持っています。毎年、あいつのシテを楽しみに来るお客さんも多いんですよ~」

「……シテ?」

「あぁ、シテというのは主役のことです。それに対する相手方のことをワキと言います。あいつはずっとシテだったんですが、なぜか今回は笛をやると言ってて……」


岩瀬はうーんと首をひねりながら言う。

鈴菜も首を傾げた。


「能楽師ってのはシテをやる人、ワキをやる人、楽器をやる人……って感じでだいたい決まってまして。尚哉のように、シテも笛もできるってのは珍しいんですよ」

「へぇ……」

「あ、ここですね。こちらの席になります」


言い、岩瀬は前列から3番目の真ん中あたりの席で立ち止った。

舞台が見渡せる、かなりいい席だ。

座った鈴菜に、岩瀬は簡単なパンフレットを差し出した。


「こちらが、今回の能の演目になります。……ではどうぞ、ごゆっくり」


岩瀬は軽く頭を下げ、入り口の方へと戻っていった。

鈴菜もぺこりと頭を下げ、岩瀬を見送った後、パンフレットに視線を落とした。



< 29 / 215 >

この作品をシェア

pagetop