夜の旋律
夜の旋律
二十九階のオフィスから夜景を眺めた。その光景よりも一番星の輝きに目を奪われた。
私もあの星のように輝くことができるだろうか。
今年三十という大台にのり、その焦りが眼前の輝きをより一層際立たせてる気がした。
いつものように残業をこなし、オフィスには私一人だった。パソコンに向い、無機質なキーボードの音だけが流れる。その音だけでは寂しいので、YouTubeで検索しピアノ三重奏を流した。
その時だった。
「ベートーヴェンですね」
私はビクッとなり振り向いた。そこには三個下の柏原がいた。中途で入ってきたが営業センスがいいのか、すぐさまトップセールスまで昇りつめた。どこか抜けているが愛嬌のある笑顔がお客さんから人気である。
「帰ったんじゃなかったの?」私は訊いた。
「クラシック好きなんですね」
私の問いかけは無視された。
彼は私の近くまで歩み寄り、YouTubeの映像を観た。
「僕、ピアノやってたんですよ」
私は彼の指を見た。見るというよりは凝視に近かったかもしれない。それほどまに繊細で綺麗だった。胸の動機が少なからず早くなるのが感じられ、忘れ去られた情欲が沸き上がって来た。
私は思わず彼の手に触れていた。彼は一瞬驚きの表情をしたが、すぐに笑顔になった。それは歯並びのよい爽やかな笑顔だった。
二人だけの社内。三重奏の曲が流れる中、見つめ合う視線。絡み合う指と指。気づけば自然に惹かれあう男女がそうするように、唇がそっと触れ合った。そして強く身体を抱きしめられ、私の情欲のメトロノームがテンポを上げる。彼の繊細な指がピアノを奏でるようにブラウスのボタンを一つひとつ滑らかに外し、手のひらで胸を包み込んだ。吐息が漏れ、雫が満たされるのを感じた。
彼は耳元で、「好きだったんですよ」と何度も何度も私に言う。
そのパンケーキの上でアイスが溶けるような甘い声が、私の全身をさらに熱くさせた。
彼との情事が終わると同時に、ベートーヴェンの三重奏の曲も終わりを告げた。彼は指先で私の顔を撫でた。
「明日も奏でてあげる」
彼は小悪魔的な目をしながら言った。
私は喜んでそれに応えるだろう。
私もあの星のように輝くことができるだろうか。
今年三十という大台にのり、その焦りが眼前の輝きをより一層際立たせてる気がした。
いつものように残業をこなし、オフィスには私一人だった。パソコンに向い、無機質なキーボードの音だけが流れる。その音だけでは寂しいので、YouTubeで検索しピアノ三重奏を流した。
その時だった。
「ベートーヴェンですね」
私はビクッとなり振り向いた。そこには三個下の柏原がいた。中途で入ってきたが営業センスがいいのか、すぐさまトップセールスまで昇りつめた。どこか抜けているが愛嬌のある笑顔がお客さんから人気である。
「帰ったんじゃなかったの?」私は訊いた。
「クラシック好きなんですね」
私の問いかけは無視された。
彼は私の近くまで歩み寄り、YouTubeの映像を観た。
「僕、ピアノやってたんですよ」
私は彼の指を見た。見るというよりは凝視に近かったかもしれない。それほどまに繊細で綺麗だった。胸の動機が少なからず早くなるのが感じられ、忘れ去られた情欲が沸き上がって来た。
私は思わず彼の手に触れていた。彼は一瞬驚きの表情をしたが、すぐに笑顔になった。それは歯並びのよい爽やかな笑顔だった。
二人だけの社内。三重奏の曲が流れる中、見つめ合う視線。絡み合う指と指。気づけば自然に惹かれあう男女がそうするように、唇がそっと触れ合った。そして強く身体を抱きしめられ、私の情欲のメトロノームがテンポを上げる。彼の繊細な指がピアノを奏でるようにブラウスのボタンを一つひとつ滑らかに外し、手のひらで胸を包み込んだ。吐息が漏れ、雫が満たされるのを感じた。
彼は耳元で、「好きだったんですよ」と何度も何度も私に言う。
そのパンケーキの上でアイスが溶けるような甘い声が、私の全身をさらに熱くさせた。
彼との情事が終わると同時に、ベートーヴェンの三重奏の曲も終わりを告げた。彼は指先で私の顔を撫でた。
「明日も奏でてあげる」
彼は小悪魔的な目をしながら言った。
私は喜んでそれに応えるだろう。