キミがいれば
「宮野くん!」
「はい」

小さな体から出るとは思えない程の声のボリュームに、俺の体は小さく跳ねた。

「もっと、前見て歩いてよ!」

なぜか、怒り気味の彼女は俺を見下す。
いつもなら、俺が見下している立場なのに…。

無性に腹が立った。

俺だって、疲れてんだよ!

「先生だって。前見てなかったんじゃねーの?」

俺は床から手を離し、重い腰を持ち上げた。
汚い床についていた手をバスパンの裾で軽く拭った。

「てか、先生、小さすぎて見えなかったわ」
「なっ!」

言い返せないような先生の姿に、さっきまでの苛立ちなんか忘れて、俺はにっこりと微笑んでいた。

「まー。先生!ドンマイ!」

励ましたつもりなのだけど、先生は挑発してきたのだと悟ったみたいで。

「宮野くんだって!」

はいはい…。
俺だって小さいですよーだ。

てか、先生に言われてもなんとも思わないし!
先生の方がはるかに小さいし!

俺はガキみたいに、心の中で先生に嫌味を言い続けた。

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