きすはぐあまこい
そこに、沢木くんはいた。
…ただし背を丸くして、寝息をたてて。
無防備なその姿に誘(いざな)われるようにわたしは忍び足で彼に近づいた。
ゆっくりとそこにしゃがみこむ。
こんな床で眠って寒くないかと思ったら、下には新聞紙が何日分か積み上げられていてちょっと安心した。
どこまでも綺麗な顔。
長い睫毛は下を向いていて、文化部故(ゆえ)の男子には珍しい白い肌。
気がつけばあんなに触りたくて仕方なかったハニーブラウンの髪に触れていた。
しかし、無意識から舞い戻されたわたしはすぐさま手を引っ込める。
じっと、その手を見つめる。
こんなに簡単に触れてしまえるものなのかとびっくりした。
同時に見つめている手をとても愛おしく感じた。