きすはぐあまこい
「…ねえ、蓮田さん」
朝と同じような調子。
いっそのこと、無視してしまいたかった。
「…う、うん?」
だけど沢木くんを無視するなんて、出来るわけがない。このわたしに。
こんなに好きな人の声を"なかったこと"になんて出来ない―…。
沢木くんはクリームサンドパンを優しく食べる。
その入口にはとろけちゃいそうな柔らかい唇。
それしか漠然と憶えていないけれど、その感触を自分が知ってるかと思うと頭がパンクしそうになった。
沢木くんはわたしの葛藤を知らない。
クリームパンの最後の一切れは口を大きく開いたけど、間に合わなくて頬にクリームがついてしまった。
それでも調子は崩さずにそれをゆっくり指で拭き取り、舌先を少し出してペロっと舐める姿がちょっとわたしには刺激が強すぎてくらっとした。