きすはぐあまこい
「…わかった。その件については検討してみる」
本当は検討なんてしなくても答えはとっくに出ていた。
わたしが沢木くんの申し出を断ることなんて出来ない。
それにあの作品を作る時の瞳に映ることが出来るなんて、これ以上のことがある?
それでもわたしがすぐに肯定しないのには理由があった。
「…ねえ、沢木くん。こっちからも一ついい?」
「ん?」
すっかりメロンパンを頬張りながら、応える彼にどうしようもないくらいの愛しさが込み上げる。
「昨日、沢木くんはわざと寝たフリをしてたんだよね…?」
「うん。ごめんね」
沢木くんの潔(いさぎよ)さにわたしは一度目を閉じた。
頭の中で繰り返す。
沢木くんは昨日の出来事を全て、知っている―…。