断髪式
「隆博先輩って、いっつもここまで送ってくれますよね。ホーム逆なのに」
駅のホームの大方を、スーツ姿のサラリーマンが占めていた。
ちらほらと学生も見てとれたが、セーラー服は唯一、美奈だけだった。
優しい、と言われてそんなことないよ、と返す。本当にそんなことない。俺が優しい気持ちでいられるのは、美奈のそばだけだ。
優しくしたいのは、美奈にだけで。
ホームに吹き込む風に、美奈の髪がなびく。
地面と平行に、あるいは斜めに。自由奔放に舞う髪は、いつも真っ直ぐに下ろされているそれとはまた違って、とても新鮮に見えた。
「…髪、切ろうかなぁ」
ふと、思い付いたように美奈が呟く。
「えっなんで?」
「んー、勉強の時邪魔なんですよね。視界に落ちてきちゃうし…学校では結んでるんだけど」
ピーッと、空気を割るホイッスルと共に、電車がホームに滑り込んでくる。
もう少し一緒にいたいのに、と、そう思うのは俺だけじゃないといい。美奈も一緒だといい。
電車が目の前に止まる。
手を伸ばして、髪を撫でた。
目の前のドアが開く前に。
するりと滑り落ちるように、一回の引っ掛かりもない髪。
素直な美奈そのものを表しているようで、それでいてアッサリしすぎて少し切ない。
「長いの…好きだよ。俺は」
「………はい」