断髪式
さよならの前の、短い会話。
その短い言葉に詰まった沢山の感情全部、美奈に伝わっているといい。
美奈の髪が好きだ。白い肌も、頑張ってって笑ってくれる表情も、穏やかな声も。
「帰ったら」
「うん」
「メール、しますね」
「…ん。待ってる」
電車のドアが閉まる。
さよなら、を言う代わりに手を振る彼女を乗せて、電車が去っていく。
この時が一番切なくて、この時一番、美奈に会いたくなる。
さっき会っていたばかりなのに。
塾が一緒で、講義の帰りに、マックでシェイクを飲む。
手はつながなかったり、ほんの少しつないだり。ゆっくり歩いても、すぐに駅に着いて。
見送る最後に、ほんの少し髪に触れる。
学生の付き合いの見本、のような。
爽やかで、清らかな付き合い方。表に出せないようなことなんて一つもない。
けれど本当は。
自分も電車に乗り込み、空いていた座席に座る。
次に講義が被るのはいつだろう。窓にこつん、と頭をもたれさせ、息をついた。
本当は、君の照れて困った顔が見たい。
焦った声が聞きたい。もっと触れたい。髪だけじゃない、首筋も、頬も、全部。
後ろめたいことの一つや二つ、君としてみたいんだ。