断髪式
穏やかな口調でそう言って、無遠慮な俺の手を咎めることもない。
ミィはいつも間違わない。嫌みなくらいに綺麗だ。
憎いとか、妬ましいとか、そういう感情を持ったことがないのだろう。
ミィは多分、安い女じゃない。だから俺はわざと、ミィ、なんて、猫みたいな安い名前で呼んでやる。
ミィ。
「~や…っ!?」
ドン、と花火が打ち上げられたみたいな音。
押し倒されて、床に崩れ込んだミィ。黒い眼が揺れる。
どこもかしこもすぐ壊れそうなほど華奢なパーツ。
降参と、すぐにでも白旗を揚げそうな腕。余分なところ一つもなく削り取られたような、足。
それでも俺を見上げる目は澄んでいて、強くて。
俺はそれに、ひどく欲情する。
「…痛いよ、豪く――ん、ん…っ」
かぶり付くようにキスをした。絡まる無味の舌。そういえば、コーヒーをまだ一口も飲んでいなかった。
ミィの味がする。ミィは深いキスをするとき、前もって歯磨きをしたがる。
させないけど。そんな、用意されたみたいな綺麗なのは、好きじゃない。
舌と舌の間に違和感。
ミィの髪。口に入り込んでいたそれが、蹂躙を妨げる。
顔をしかめて唇から髪を抜き取れば、それは束になってテラテラ光り、濡れていた。