断髪式
「折原、花火大会楽しかったな。今度どっか行きたいとこある?」
「美奈、俺来週の講義も参加するから、一緒に帰ろう」
「ナツは風邪引いてないか。ベランダ冷えてたから」
「ミィ。来週も同じ曜日。部屋で待ってろ」
携帯に届いていたメールを一通り確認して、電源を落とした。
夕方の、誰もいない屋上。
運動場で部活をしている生徒たちも、ずーっと上から見下ろしているあたしには気づかない。
しばらく降っていない雨。花火大会の日から、もうずっと濁った空を見ていない。
乾いたコンクリートは、触れなくてもザラザラしているのが伝わった。その上に、スカートのプリーツを整えることなく座る。
地べたに直接座るなんて、雑菌だらけで衛生にはよくないのかもしれないけど、おあいこだ。
人間の中身だって、おびただしい数の菌だらけなんだから。
後ろでひとまとめにしているポニーテールから、ゴムをするりと抜き取る。
電源を切った携帯の画面に、映り込んでいるあたしの顔。
表情に乏しいその顔には、どんな名前も似合わないような気がした。
…呼び方が違うと、別人みたいだ。
折原。美奈。ナツ。ミィ。
全部、あたしのことなのに。