断髪式
罪悪感がないわけじゃない。
ないどころか、罪の意識は頭の中を埋めていく。
そうじゃなきゃいけない。ずっとどす黒い気持ちでいっぱいにして、塗りつぶさないといけない。
じゃないともう一つの罪が、浮かび上がってきてしまうから。
夕暮れの屋上に、風が吹き込んだ。
昼間の熱気を消しきらない温度。あたしの長い髪が、風に舞う。
塞がれる視界の中、携帯の電源ボタンを探す。
さっき自分で落としたばかりの電源を入れると、ゆっくりと四角い光が灯った。
画面を撫でるとスクロールする、電話帳の項目。
履歴から探し当てた、一人の名前。
風が吹く。舞い散る髪が再び視界を塞ぐ。暑いのか冷たいのか。足を汚した乾いた砂が、温覚も麻痺させる。
まるでそれは、あたしの聴覚だけを際立たせるように。
表示された名前の、その漢字一つ一つが、他とは違って際立って見える。
戸惑いなく、通話ボタンを押すことができたのは。
…言うべき言葉を、もう決めてしまっていたから。
「…もしもし?」