断髪式
予想していたそのままの声が、あたしの鼓膜を揺らす。高さも、かすれ具合も、言葉尻の切り方も。
大丈夫。大丈夫だから、だからはやく。息を吸い込んで、一息に言おう。
スピーカーから漏れ出る声に、
「ん。…どした?」
心が反応して、震えてしまう前に。
「──み」
「ん?」
「……髪、切ろうかな」
あたしの発言の後に、少しの沈黙。
そのあとすぐ、水の中の泡が弾けたような、笑い声が聞こえた。
ははっ、て。短く散った、花火みたいに。
「…なーんだよ、いきなり!電話とか珍しいなと思ったら」
何かあったのかって心配するだろ、って、また短く笑う。
黙ったままのあたしに、電話の向こうの声は、楽しそうに続けた。
「いいんじゃない、切るの。お前ずっと長いし、一回くらい短いのも見てみたいかも」
「……そ、かな」
「おー。つーか、髪短いとシャンプー楽だぞ、本気で」
「…ふ、本気でって」
「お前がドライヤーで長いこと乾かしてるの見る度さぁ、ちょっと尊敬してたもん俺」
「…ははっ、うん……」
わたしは。
あなたと話すとき、
いつも普通を装って、いまわたしは普通の話し方かなって、普通に笑えているかなって、わたしは。
「…なぁ、美奈津」
あなたの声を聞くだけで、普通の息の仕方を忘れてしまうのに。