断髪式

さみしい
さみしい
さみしい
くるしい
さみしい

このどうしようもない思いを、隙間を、埋めたくて補いたくて。

他の手に触れる。じゃないと自分を嫌いになりすぎて、消えてしまいそうになるから。

他の温度で一時的に薄めて。薄め続けていけば、このまま忘れられるんじゃないかって。

でもあなたの声を聞いた途端、それは全部無駄になる。色濃くなる。煮詰まる。

忘れられるって、大丈夫だって。そんなのは錯覚だって気づいてしまう。



照れ屋で、素直なところ

優しくて、綺麗なところ

不器用で、寂しがり屋なところ

強引で、子供みたいなところ


他の人にそれを見つけて、一つ一つ補うの。そうしたら代わりになるんじゃないかって。

照れ屋で、素直で、優しくて、綺麗で、不器用で、寂しがり屋で、強引で、子供みたいにワガママで、子供みたいに屈託なく笑うあなたの、代わりになるんじゃないかって。


──髪、切ろうかな。

あなたに言ったなんでもない台詞が、どんな意味を持つかあなたは知らないでしょう?


この電話を、切ったら。


美容院に電話をかけよう。明日は美容院に行こう。

長く伸びた髪を、バッサリと切りに行こう。

そうしたら全部終わるから。やめるから。

あなたを想うことを始めてしまってから、ずっと伸ばしてきた髪の毛。

あなたに気付かれないように、私の中だけで終わらせられるように。

そうして私はちゃんと、誰か別のひとりを好きになろう。好きだと大声をはって言える、だれかを。
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