断髪式
蒸し返した地上に、アナウンスが響く。
もうすぐ花火が上がる。きっと夜空の星たちが避けたくなるような、でっかい花火が。
はやく、と。瞳をキラキラさせて、川の向こうの夜空を見上げる折原。
その折原の横顔を盗み見て、慌てて伏せて、でももう少しだけ見て。
ポニーテールのような高い位置に結わえられた髪型。
見ているだけだった憧れの対象が、触れられる位置にある。触りたい。きっとサラサラだし。触りたい、でももったいない。
「…切るな、よ」
そう思ったら、自然と口に出していた。
「……え?」
「~や、さっき言ってただろ!切ろうかなって」
折原の大きくなった瞳がこっちを向いて、思わず目をそらしそうになる。でも、耐えた。
折原を真っ直ぐ見て、真っ直ぐ。言葉を伝える。
「あー…えっと、な。こうやって浴衣とか着た時にさ、髪長いのまとめるのって…結構いいじゃん。いっつものポニーテール、も俺、すきだし。あー……うまく、言えねーけど…」
俺、多分ちゃんと恋をしたのはお前が初めてで、
なあおれ、
もう多分ずっと、けっこう、好きだったんだ。
「今日の折原は、か、わいいって思う…し…っ」
パーン―――!!
吐ききった瞬間、頭上の空が明るく光った。
次々と打ち上げられる花火。惜しげもなく、夜空に散っていく火花。
光に染まる、折原の紺の浴衣。