好きだと言えなくて

「・・・・・・」

何も言えずにいたあたしを、抱きしめたままの澤田くん。
その澤田くんの気持ちが痛くて、あたしはやっとの思いで声を出した。

「ごめんなさい・・・あたし・・・好きな人がいるの・・・」

その声に、また力を入れた澤田くん。

「だから・・・あいつのことなんか、忘れさせてやるから・・・」

「ダメなの・・・あたし・・・俊ちゃんじゃなきゃダメなの・・・」

そう言ったあたしの目から流れた涙は、止まることを知らない。

「俊ちゃん・・・俊ちゃん・・・」

そんなあたしを抱きしめる力を少し緩めた澤田くんは、あたしの顔を強引に上げさせて、じっとあたしの顔を見つめた。
目を閉じた澤田くんの顔が近づいてくる。
そしてそのまま、あたしの唇は、澤田くんの唇に強引に奪われていた。




< 21 / 105 >

この作品をシェア

pagetop