好きだと言えなくて

「春乃!」

俺は無我夢中で走って行き、春乃を抱きしめた。

「俊ちゃん・・・」

「良かった・・・春乃・・・」

春乃・・・春乃・・・

抱きしめる腕に力を込めると、硬くなっていた春乃の体からふっと力が抜けた。

「俊ちゃん・・・」

春乃・・・泣くなよ・・・

俺は春乃の涙を拭った。
その俺の顔を見つめていた春乃の視線が俺のうしろを見た。
何かを見た春乃は慌てたように俺から離れた。

「ご、ごめんなさい!あたし、もう大丈夫だから!」

そう言ってその場を離れようとした春乃を、俺はまた抱きしめた。
< 62 / 105 >

この作品をシェア

pagetop