好きだと言えなくて

俺が春乃を初めて見たのは2年前・・・
その日は、雨が降っているせいか春にしては少し肌寒い日だった。
受験生だった俺は、塾からの帰り道、春乃に出会ったんだ。


「かわいそうにね・・・でも、あたしの家じゃ猫は飼えないんだよ・・・ごめんね・・・いい人に拾われるんだよ・・・」

そう言った目の前の女は、捨てられていた猫が入った箱に自分の傘を差して、自分は濡れながら走り去って行った。
その心優しい行動と、少しだけ見えたそいつの泣き顔に、俺はやられてしまった。
気づいたら、箱に差された傘をたたみ、俺はその猫を箱ごと家に連れ帰っていたんだ。

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