檸檬の変革
聞き覚えのあるバイクのエンジン音。文也だ。
私は近づくエンジン音にワクワクしながら、でもそれを誰にも悟られない様にテレビに顔を向け、エンジン音を聞いている。
あちきくんの家の近くまで来てエンジン音が消えた。
近所迷惑になるので、暗黙のルールであちきくんの近所まで来たら皆バイクのエンジンを切るのだ。
千穂子が立ち上がり玄関に走って行った。

私は千穂子を見なかった。

玄関の扉が開く音。
『こんちはー。』
私の耳が声を捕らえる。
『はいよー。』ママさんの返事。
千穂子と何か話ながらリビングに入って来た。

私はリビングの扉を自然な感じで見た。

文也が私の瞳いっぱいに映った。

背丈は177cm 。細身で繊細な感じ。声は兎に角優しい。そして優しい声で静かに話す。
どんな時も冷静で静かに微笑みここぞと言うときの一言で場を盛り上げたり、静めたりする。
そして長くて綺麗な手をしてる。

その手で私の髪をよくとかしてくれる。
文也は私の髪をとかすのが好きらしい。
髪をとかされると私は眠くなる。
優しく綺麗な手で文也に触られているから。

千穂子は何も言わない。

文也は美容師になりたいと聞いているからかもしれない。
でも、私は知っている。
文也が髪を触るのは私だけ。
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