檸檬の変革
その時外から殴る音と誰かが倒れる音がした。
私は裸足で外に飛び出した。

倒れているのはあちき君で拳を握り締めて立っていたのは、徹だった。
徹は泣いていた。

文也はただ、立っていた。
何の感情も顔には出ずに、立っていた。
私にはそれがとても悲しく思った。

徹は袖で涙を拭うと、あちき君に手を差しだし立たせた。

いつの間にか私の横に千穂子が立っていた。


あちき君は徹の肩に腕を回し
『ウチに入ろう。』と言った。

黙っていた文也が静かに言った。
『俺、文弥と約束があるんだ。大事な約束だから、出て来る。千穂子待てるな?』

千穂子は頷いた。
『あちき、徹。千穂子を頼むわ。』

私は文也と何の約束をしたんだろう……。
ぼーっと佇む私を文也が車に乗るように促した。

助手席に乗り込む時千穂子があちき君の家に入る所を見た。
千穂子は振り向かなかった。

車は私達を乗せ走り出した。

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