アンジュエールの道標
第2話
待ち人、来たらず
夕刻になると、彼女の姿はいつも橋の上にあった。
欄干に座り長い髪を風に任せ、見つめるのは直線に伸びた橋の向こう。
何も言わず、ただ見つめる。
「誰か、待ってるの?」
彼女に声をかけてきたのは真っ白い猫を抱いた青年。
「……えぇ」
彼女は彼を見ることなくそう言って、端の向こう側を眺め続ける。
すると、一人の男が橋の向こうからやって来た。
その姿が彼女の瞳に映る。
けれど、彼は欄干に座る彼女を一度も見ることなく通り過ぎていった。