アンジュエールの道標

どうしてなのか。

そう聞かれても出てくる答えはなくて。


「だって、ダメなの」


ただ、そう答えた。

声を掛けたいのに、名前を呼びたいのに――。


「寒くなってきたね」


彼の腕にいる真っ白い猫がもぞもぞと彼の腕の中で体を動かす。

まるで彼の腕の中に体を埋めるように。

だから、


「そうね」


と呟いて彼女は遠くに見える背中を見送った。


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