アンジュエールの道標
劈くようなブレーキ音が頭の中に響き始める。
いきなり車のライトに照らされ目の前は真っ白。
その直後、体は空中に跳ね飛ばされて――
痛みは無かった。
ただ、その瞬間、心と体は離れてしまって。
真下に見えたのは全身から血を流す自分の姿。
「だから明日がチャンスだよ」
不意に聞こえる彼の声に意識が呼び戻され、彼女は肩を揺らした。
「……なんの?」
ようやく紡がれる声に彼はふわりと笑う。
「彼と話すことの出来る最後のチャンスだ」
いつも目の前を通り過ぎる彼。
それを見つめるだけで過ぎていく毎日。
彼は一体――
「誰?」
もう、それすらも覚えてなくて……。
そんな彼女に彼は寂しそうな笑みを浮かべて真実を告げる。
「君の彼氏だよ」