アンジュエールの道標


劈くようなブレーキ音が頭の中に響き始める。

いきなり車のライトに照らされ目の前は真っ白。

その直後、体は空中に跳ね飛ばされて――


痛みは無かった。

ただ、その瞬間、心と体は離れてしまって。


真下に見えたのは全身から血を流す自分の姿。





「だから明日がチャンスだよ」


不意に聞こえる彼の声に意識が呼び戻され、彼女は肩を揺らした。


「……なんの?」


ようやく紡がれる声に彼はふわりと笑う。


「彼と話すことの出来る最後のチャンスだ」


いつも目の前を通り過ぎる彼。

それを見つめるだけで過ぎていく毎日。

彼は一体――


「誰?」


もう、それすらも覚えてなくて……。

そんな彼女に彼は寂しそうな笑みを浮かべて真実を告げる。


「君の彼氏だよ」

< 155 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop