アンジュエールの道標

カレシ?

彼氏……

あぁ、そうだ。

彼は――


「……カズ」

「そう、酒井一志さん」


夢を追いかけてばかりの彼。

いつか音楽だけで生きていけると信じて。

毎日バイトに明け暮れ、

昼は工事現場、夜はバーで働く。

その合間、この橋の上で会うのが日課だったのに。


「良かった、まだ思い出せて」


頬を伝う涙を彼がそっと掬う。


「あした、また来るね」


そういい残すと彼はまた猫を抱いたまま歩いていってしまった。

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