アンジュエールの道標
脈絡のない台詞。
なのに、
「……そうですか」
と、事も無げに返した。
猫を抱いた彼がゆっくりと彼女を見る。
けれど彼女はその瞳から大粒の涙を零すだけ。
もう動くことも、声をかけることも叶わない、その事実に。
「伝えましょうか?」
「えっ?」
「彼女に、そこにいるんです」
意味のわからない台詞。
なのに、信じてしまいそうになる。
視線を彼の指差した方向に。
勿論そこには誰もいない。
けれど、何故か香る甘いシャンプーの香りに少し目を細めた。