アンジュエールの道標
小花柄のワンピースを着た彼女。
その上にはカーディガンを羽織り、この季節には似合わない姿。
だけどそれはあの時と同じ格好で――。
「……理枝?」
一志の声で呪縛が解けるかのように色づいていく理枝。
透き通る肌は血色のよいものに、瞳は色を取り戻し、彼女の頬はほんのりとピンクに。
そして、色を取り戻した瞳からは大粒の真珠が煌きながら流れていった。
「やっと、気づいてくれた」
ずっと声を掛けたくて、でも掛けられなかった。
「ごめん、約束に間に合わなくて」
間に合ってさえいれば――
そう、あの時もいつものように橋の上で待ち合わせて。
けれど、待っても待っても彼は来なくて。
伝えないといけない言葉があったのに。
やっと来たメールには「遅くなる」の一言。
だから、歩いて帰ろうと、橋を渡って横断歩道を――