アンジュエールの道標
「白夜、後は頼むよ」
黒曜石のような彼の瞳が黄金色に変わる。
そして腕の中にいた猫がふわりと宙に。
そのふさふさの尾は3本に分かれて――。
「白夜についていくといいよ。迷子にならないから」
彼がにっこり笑うと白夜の白い毛が発行するように輝いて。
「来い、面倒だが連れて行ってやる」
その声は低く、直接頭に響く。
理枝は驚きながらもすべてを理解したのか、コクリと頷いて、
――宙を舞った。
「理枝……?」
一志がそう口にした瞬間、
世界は時間を取り戻した。
太陽は力なくビルの谷間に沈んで行き、川はせせらぎの音を響かせ流れていく。
風は髪を揺らし、鳥は家路を急ぐように羽ばたいて――。