アンジュエールの道標
さっきまで暗闇だったのに。
真っ直ぐ縦に空間は裂けて、まるでナイフのように光が入り込む。
私の足を掴んでいた黒く冷たい『手』も、その光に当たってはじけ飛んで……。
「ね? 夢だったでしょう?」
彼は笑って立っていた。
その腕に真っ白な猫を抱いて。
色素の薄い髪は光に照らされて銀色に、その瞳は黒曜石みたいに真っ黒なのに。
「……だれ?」
こんな人、私は知らない。
「ただの通りすがりです」
「これ、夢だよね」
「はい」
分かってる。
これは夢だ。
さっきまでいつもと同じ夢を見ていたのだから、ちゃんと分かってる。
でも、目の前の彼は全然知らない。
通りすがり?
夢の中で通りすがりって見るものなの?