アンジュエールの道標
「話して?」
黒曜石の瞳が私に向かって微笑みかけてくれる。とても優しくて、なにもかも見透かしたような瞳で――。
頭の中であの夜の事が思い出される。
思い出したくなんて無いのに。
「ごめんね、あまり時間が無いから」
目の前、永久さんの顔がぐにゃりと歪む。
あれ? これってやっぱり夢なの?
「違うよ。でもこれから夢を見るんだ。大丈夫、俺が付いてるからね」
視界が倒れていって、頬に柔らかいものを感じる。
あぁ、真っ白な猫の毛だ。
「仕方ないのぅ」
酷く遠くでそんな白夜さんの声を聞いた。