アンジュエールの道標
ここは……。
目を開けて辺りを見回してみる。
何も無い空間。
私が一歩脚を出せば床には波紋が広がる。
とてもゆっくりとした速度で。
それは最初透明だったのに、ジワリとしみが広がっていくように黒く変化していく。
――ダメ。あの夢だ。
早く目を覚まさなきゃ!
そう思って頬をパチンと叩いてみたけど痛くも無いし目も覚めない。
余計でもこれは夢なんだって思い知った。
それなら早くこの空間から逃げれば、そうすれば――。
早く、早く!
走ろうとして足を踏む出すのに、私の足はずぶりと黒い水面に沈んでしまう。
ううん、それどころか黒い液体は私の足首に纏わり付いて……。