アンジュエールの道標
「――はっ、離して!!」
まるで人の手のように絡みつく。
その手を振り切ろうと無理やり動かすとバランスが崩れて私は水面に座り込んでしまった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!
黒い水面がむくりと盛り上がる。
それは人の形をとり始めて――。
「いやぁ――!!」
「大丈夫」
あたしは聞き覚えのある声に顔を上げた。
瞬間光がはじけて闇を吹き飛ばす。
あたしの足を掴んでいた黒い手も、まるでしぶきのように吹き飛んでしまった。