アンジュエールの道標
あの夢に捕まらなかったからかな?
いつもより頭が軽い気がする。
制服に着替えて髪をセットして。
階段を降りると鏡の前で香水を振りかけてるママが居た。
「万里ちゃん、ママ、今日も遅いから。晩御飯は勝手にね」
その台詞にダイニングのテーブルを見れば、一枚のお札。
「じゃ、鍵はかけなさいよ」
そしてママは私の顔を見ることなく家を出て行った。
朝食の用意もされていないテーブル。
私はたった一枚、置かれたお札を取って、カバンに捻りこんだ。
もう高校生だ。
こんなことで『ネグレクト』だ、とか『育児放棄』だなんて喚くつもりは無い。
このほうが居心地がいいもの――。