見えない彼女。
いち
私がこんなことになったのはいつだっただろうか。
今日もコンビニでいいジュースを物色する。
・・・今日は抹茶ミルクにしよう。
毎朝の日課である一日のジュース選びは最近の唯一の楽しみである。抹茶ミルクをつかみ、レジに向かうことなくストローだけを拝借してコンビニを出る。ピンポンピンポン、と間抜けな音が店内に鳴り響く。
「ありがとうございま・・・あれ」
暇そうに髪の毛をいじっていた店員が顔をあげ、誰もいない店内を見回す。そこで出て行ったものもいないことに気付き、恥ずかしそうに顔を伏せ、つぶやいた。
「なんでかってになったんだろ?」
あの音は出入り口に誰かが立ったときにしかならないはずなのに。すこし背筋がぞくりとし、仕事仕事、と店員は自分に喝をいれカウンターから出ていった。
いつも、あのセンサーだけは私を認識してくれる。
ついでに何個か拝借した惣菜パンにかじりつき、ゆっくりと咀嚼していく。
同じコンビニばかりだと破産してしまうのでローテーションで回りの店からちょっとずつものを拝借して私は生活している。申し訳ないとは思っているが、生きていくためだ。
誰にぶつかっても、みな不思議そうな顔をするだけだ。私のことをみてくれる人などいない。こんな体になってからは老いることはない。
死ぬことはできるのだろうか。そう考えてみるものの、やはり怖くてできないのだ。
こんなことになったのも、すべて私のせい。
全部、自業自得なのだ。
ごくんとパンを飲み下し、上を向いて学校に向かう。寝泊りはすべて学校で行っている。たまに温泉やホテルに足を伸ばすことがあるが、基本は保健室やシャワー室等で事足りている。
寝る前にこっそりもらってきた音楽プレーヤーを職員室のパソコンで充電し、起きたあとそれをポケットにしまいこみ、生徒職員が帰るまでイヤホンをつけ過ごす。寝過ごしたときは先生に音楽プレーヤーが見つかって大変なことになったがまあ過去のことだ。
私がしたことはすべて結果として現れる。・・・つまり、ジュース等を私が持っているときは相手の目には見えないが、私の手から離れたとき初めて他人の目へとはいるのである。
まったく、便利といっちゃ便利かな。
最後に声を発したのはいつであったか。誰になにをなはしても私の声が耳に届くことはなかったので、私はそれから誰かに話しかけることはなくなった。