c-wolf
「それは無理な話だな。俺は今から会いに行く」


「……」


「そうですか。でしたら、この人混みの中を皆に邪魔されながら長い時間をかけて、いえ、長い日にちをかけて官長室までお行きください」


珠羅の言葉に、威濡は小さく舌打ちをした。


舌打ちが癖らしい。


「嫌味な言い方するよな、おまえって」


「光栄です」


「褒めてねぇし」


琥露はそんな二人の様子をただただ眺めているだけだった。


そして、今にも喧嘩を始めそうな二人を止めたのは、不思議な雰囲気を醸し出す人だった。


「珠羅ちゃん、ダメだよ。そんなに威濡をイジメちゃ」


コツコツとホールに靴音を響かせてでてきたのは、珠羅と瓜二つの顔、珠羅の兄、伽羅(きゃら)だった。


「兄さん」


珠羅は反論するように顔を少しだけ歪めたが、伽羅は微笑んだ。


「官長が[珠羅にはああいったけど、恐らく、威濡は僕の言うことなんて聞かないだろうからね。そうなったときは連れてきていいよ]、と言っていたからね。僕は威濡を官長室に連れていくよ」


威濡はニヤリと珠羅を小馬鹿にするようにみたが、珠羅はもうすでにその場から消えていた。


「うわっ!あいつ!せこいぞ!!」


威濡がチッと盛大に舌打ちをしたところで、琥露がようやく口を開けた。


「伽羅。助かった。あのままではいつまで続くのかわからなかったからな」


伽羅はいいの、いいの、と軽快に笑うと、パチンッと指をならした。


その瞬間、三人の姿は一瞬にして消えた。


そして、高層ビルの人たちは、自分の仕事に就いた。

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